2011年10月5日水曜日

香りの魔力

匂いとか香りに昔より敏感になってきた気がする。これも年齢を重ねたことが影響しているのだろうか。

夏の香り、秋の香り、それぞれ当たり前のように感じ取っているが、そんな季節の移り変わりをあらわす香りが最近妙に気になる。香りだけでなく、季節の変化に敏感になっていること自体が、余生を本能的に察知しているのだろうか。危ない危ない。

秋の風の香り。私のボキャブラリーではうまく表現することができないが、なんとなく、鼻呼吸をめいっぱいしたくなるような香りを感じる。澄んだ匂い、少し湿った空気が鼻をくすぐる。雨が混ざった空気もまた「いとをかし」だ。

秋の生まれだから、秋を贔屓したくなるのが私の習性だが、実際に一年で一番、深呼吸したくなる季節だと思う。

金木犀の香りが加われば、まさに無敵だ。問答無用で機嫌が良くなる。イライラも収まり、無理難題も安請け合いしたくなるし、喧嘩していた人とも仲直りできそうだし、散財して財布が寂しくても大きな気になれるし、無性に大恋愛なんかもしたくなる。

このところ、夜遅い時間に、木々に覆われた公園や遊歩道のベンチに座って、夜風を感じている場面が何度かあった。夜風にのって金木犀が香る。はかなげに響く虫の声も心を穏やかにしてくれる。もの悲しさの一歩手前の風情が秋の魅力なんだとつくづく感じた。

なんかエセ兼好法師みたいになってきたから軌道修正。

香りとか匂いの話だった。

私が好きな香りは金木犀を筆頭に結構たくさんある。花で言えば、梅の香りやプルメリアの香り。食べ物で言えば、何といってもウナギだ。落語じゃないが、匂いだけで白米をわんさか食べられると思う。

ニンニクを炒めた匂い、酢飯を作っている時の匂い、鰹節や昆布で作られていく出汁の匂い、隣の家がなぜか深夜に肉を焼く匂いも好きだ。炊きたてご飯の匂い、新そばの匂い、屋台の焼きそばの匂いもたまらない。

食べ物を挙げ出すときりがない。

食べもの以外では何があるだろう。

上質の靴クリームで磨いている時の上等な革靴の香りもうっとりする。靴がピカピカになる喜びだけでなく、あの匂いを楽しむことが靴磨きに精を出す理由だ。

皮フェチというわけではないが、その手の趣味人、ボンンテージマニアの気持ちがちょっとわかる気がする。

ほろ酔い加減でふかす葉巻の香りもスンバラシイ。最近、頑張って紙巻タバコの禁煙に成功中なので、葉巻をふかす頻度が増えてしまった。

今の季節、散歩ついでに外でぼんやり楽しむ葉巻は最高だし、酒場でアホ話を力説しながらプカプカする葉巻もやめられない。

香水はあまり得意ではないが、お香の香りは大好きだ。これまで長年にわたる潜水旅行の合間に東南アジアで安い香木を物色したこともある。沈香に興味をそそられたこともあったが、散財しそうな気がして見て見ぬふりをしている。

沈香。チンコとは読まない。「じんこう」だ。ベトナム産を最高峰にインドネシア産も世界的に評価が高い。日本でも古来、権力者が手にしてきた沈香の逸話は多く、香りの持つ魔力は並大抵のものではない。

東南アジアでも、呪術師が精霊と交信する目的に沈香を焚いてきた歴史があるらしい。バリ島あたりに旅行したときに、沈香には手が出ず、白檀あたりで作られた小さな工芸品を買うぐらいしかできない私だが、いつか本物を手にしたいと思う。

香木、沈香は、もともと鎮静効果に特に優れていたことから、薬物的な位置づけもあるらしい。今で言うアロマなんたらの元祖みたいなものだったんだろう。

この冬、またバリ島行きをこっそり検討しているので、あらためて、香木も物色しようかと思う。

話が変わる。

手軽な香りという点では、そこらへんで売っているお香も捨てがたい。変に今風に媚びた香りだと、人口的、作為的すぎてすぐに飽きるが、あれこれ比べながら自分の好みの香りに出会うと嬉しくなる。


徳利、ぐい呑みばかり買ってしまう焼きもの収集の一環で、ついでに欲しくなるのが香炉だ。使い込むと香炉自体に香りが宿ってなんとも愛おしい存在になる。

妙に神経が疲れた時や、自宅で暇で暇で仕方がないときは、自分の部屋でお香を焚いてひとり喜んでいる。気のせいか、その後の眠りは深くなるようだ。

アロマオイルを温める作業よりよっぽど簡単でお手軽だ。イライラしがちでお疲れな人にはオススメです。

ちなみに、懲りずに続けている銀座のクラブ活動のきっかけになった店が6丁目にある老舗クラブ「M」。地下に佇むこの店は、階段を下りて店内に入った途端に香るお香の匂いが特徴的だ。

今もたまに顔を出してしまうのは、きっとその香りを嗅ぎたいからだろう。

とか言うと何となくカッチョいいから、そういうことにしておく。

でも、何年か前にその店で使っているお香をもらって家で焚いてみたことがあるのだが、「銀座の夜」的な香りがプンプンで、さすがに落ち着かなくなってすぐにやめた。

やはりTPOというか、その場その場にふさわしい香りじゃないとダメだ。

お香の話ばかりになってしまった。

ホントは好きな女性の首筋の香りとかについて力説したいところだが、このブログは上品を旨に哲学的なことしか書かないようにしているので、そのあたりには触れない。

でも、生物学的に人間は異性の耳の後ろあたりの匂いに惹かれるらしいから、首筋に近づきたくなるのは、至極まっとうな行動なんだそうだ。

妙に納得する。

話が脱線しそうだから今日はこの辺で。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

はじめまして!
『匂い・敏感』でググっていたところ、こちらに辿り着きました。
調べていた内容に関係無かったので無視しようと思いましたが、
文章のあまりのキレ良さに引き込まれ、読みふけってしまいました。。。
しかも旅先のバリ島で・・・・。

通りすがり?(真似してすみません)のブログをブックマークしたのは初めてです。
あまりの面白さに感動したので、ついついコメントしました。
日本に帰国しましたら(住まいは悪しき街・池袋です。。)またゆっくり読ませて頂きます!

富豪記者 さんのコメント...

コメント有り難うございます!

お褒めいただき恐縮です。

おまけに私がマニアみたいに大好きなバリ島からとのこと。

きっと守護霊?のイタズラでしょう(笑)!

今後ともよろしくお願いいたします。