2012年4月2日月曜日

ストックホルム アクアビット

今日は何を食べようか。夕方になると、こんなことで1時間以上悩むことがある。

バカじゃなかろうか。バカなんだと思う。

黙って目の前にあるものを喜んで食べればいいものを、人生の一大事みたいな気分になって延々と悩む。

変な霊体でも取り憑いているのかと心配したくなる。

先日も、そんな事態に陥った。はたから見たら、親が死んだのか、勤め先が倒産したのかと思われそうなほど、深刻な様子で寡黙になって自問自答を続ける。

和食か洋食か、はたまた中華か。寿司は食ったばかりだし、フレンチ、イタリアンの気分じゃないし、鍋物は飽きたし、揚げ物は胸焼けするし、魚の香りは今日の気分じゃないし、等々、どうでもいいことに脳みそをフル稼動させる。

こうなるともうダメだ。何か画期的なヒラメキが出るまで悶々とする。もちろん、「なんでもいい」という日もあるが、「滅多に食わないものじゃなきゃダメだ」と思い始めるとタチが悪い。日頃、コンビニで売っている菓子パンでも喜んで食べるくせに、無性にこだわりたい状態に陥ってしまう。

考えがまとまらない時、煩悩の塊である私の脳は、子どもの頃に食べさせてもらった「画期的な食べ物」に照準を合わせたりする。

そんな食べ物の代表格が「チーズフォンデュ」とか「スモーガスボード」。

子どもの頃、欧州好きだった祖父の影響で、アマノジャッキーとしてはちょっと嬉しいそれらの専門レストランに連れて行かれた。

間違いなく家庭では出てこないという点で、私にとっては外食そのものという印象がある。

チーズフォンデュなんて、考えてみれば、パンにチーズを塗りたくって食べるだけだ。パンが好きではない私がムシャムシャ喜んで食べるのもおかしな話だが、あの「普通じゃない感じ」にちょっと惹かれる。

最近はご無沙汰だから近いうちに食べに行こうかと思っている。

さて先日、またも夕食選びに迷走状態になり、しばし沈思黙考した結果、数年ぶりに赤坂の「ストックホルム」に行くことにした。


バイキング料理の元祖といわれる「スモーガスボード」の専門店だ。やたらと度数の高い蒸留酒・アクアビットに合う料理がたくさん並んでいる。

なかでもニシン料理が特徴的だ。5,6種類のソースが異なる酢漬けのニシンがわんさか用意されている。

これがウマい。青魚臭さはなく、いくら食べても後味が気になることもない。キャビアとかイクラも取り放題なのだが、ついついニシンばかりを皿に盛ってしまう。


マスタードソース、ハーブソースなどに浸かったニシンの酸味がキンキンに冷やしたアクアビットと絶妙にマッチする。胃が熱くなるし、さっさとほろ酔い気分になるのも楽しい。

北海道あたりでは寿司屋でも居酒屋でもニシンが出てくるが、東京では珍しい部類に入るだろう。なんでだろう。足が早いという話は聞いたことがあるが、酢漬け料理だったら、アレコレ楽しめそうだから、もっと普及しても良いと思う。

それぞれのソースをまとった酢漬けニシンにつけ合わせの細かく刻んだオニオンをドバッとトッピングしてがっつく。頭の中には、いにしえの昭和歌謡「石狩挽歌」が流れる。

酢漬けニシンの強めな味には強めな酒だ。凍らそうとしても度数が高くて凍らない冷えたアクアビットを流し込む。

これはまさに「画期的な食べ物」だろう。悩み抜いた末にたどり着いたディナーとしては悪くない。


取り放題の料理には、魚、肉、野菜、チーズなどが盛りだくさんなのだが、単品メニューからトナカイのソーセージも頼んでみる。

トナカイだ。そんなものをメニューに見つけたらオーダーしないわけにはいかない。肉肉しい風味のほんのちょっぴりクセのあるトナカイ肉を頬ばり、アクアビットを流し込む。ウッシッシだ。

ハードリカーで麻痺した私の胃袋は、結局、フェットチーネ風のパスタにミートボールソースをブリブリかけて食べるし、パエリア風のコメのオーブン料理もわんさか食べてしまう。

炭水化物好きのタンスイカブラーとしてはこればかりは避けて通れない。気付けば突き出た腹をさすりながらデザートまで皿に盛りすぎて困る始末だ。

意地汚いのかバカなのか。きっと両方だろう。

最近、いつも満腹感、膨満感に苦しんでいる。そんな人間は、スモーガスボードとかバイキング料理なんかを選んではいけない。分かってはいるのだが、ついつい「アレコレ食べられるぞ」と脳みそが囁く。

このところ、神経性胃炎のクスリと食べ過ぎ用のクスリと胃酸過多用のクスリを手放せない生活をしている。情けないことだ。

こういうヤツのことを間違ってもグルメとは言わない。

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