2014年8月18日月曜日

サウダージ


昨年秋、スペインのアンダルシア地方を旅しながら、「アラブ系文化の香りがするヨーロッパ」に惹かれた。エキゾチックでどこか哀愁漂う独特な雰囲気が気に入った。

基礎知識はまったくないのだが、時々そっち方面の地図を見ながら、いつかゆっくり旅をしたいと企んでいる。

先月、パリとイタリアに出かけたのに、靴とパスタにかまけて、そっち側まで行かなかったことを後悔している。

まあ、そんな後悔が「次」へのモチベーションになるから、それはそれで大事な「熟成期間」である。マイレージはアホほど貯まっている。スターアライアンス、ワンワールド、どっちでもOKである。

ということで、ポルトガルである。凄く行きたい場所だ。地図で見るとヨーロッパの西端だ。海峡を越えればすぐにアフリカ大陸のモロッコがあり、カサブランカがある。

もうなんだかその辺りの地名を聞いているだけでワクワクしてくる。

先日、BSのドキュメント番組でポルトガルの伝統音楽『ファド』を特集していた。しびれた。哀愁たっぷり、情感たっぷりのあちらの演歌である。

言葉などちっとも分からないのに泣きそうになった。「ファド酒場でグダグダになりたい」というのが私の近々の目標である。

ポルトガルといえば「サウダージ」である。この言葉、誰もが耳にしたことがあるのではないか。哀愁とか切なさとか、そんなニュアンスで理解されている。

ところがどっこい、「サウダージ」は翻訳不能な言葉なんだそうだ。もちろん、哀愁や切なさという意味合いも正しい。

それ以外に郷愁、憧憬、思慕、未練、愛惜、孤独はもちろん、恋しい、逢いたい、柔らかな思いといった意味合いも持つらしい。

実に複雑なニュアンスを持つ言葉だ。日本語にも「もののあわれ」など外国語に翻訳できない言葉があるが、サウダージもポルトガル人の精神性や考え方と密接に関連する「文化ワード」である。

もともとは「孤独」という言葉が語源で、その他の情感描写に拡がっていったらしい。一言でいえば微妙な心のヒダの部分を意味する。

情緒、情感があって繊細な感じである。どことなく日本人的な感性とも通じるような気がする。何となく親しみを感じる。

思えば、カステラとかテンプラもポルトガル由来だし、鉄砲だって確かあっちから伝来した。昔からお世話になっているわけだ。

私自身、バリバリの中年である。中年状態が深く進行?してくると、一種の懐古趣味が強まってくる。聴きたくなる音楽にしても自分が今の半分ぐらいの年齢の時に聴いていた曲が多い。

際限なく拡がっていた未来への期待と、未来が見えないことへの不安という相反する感覚の中で悶々としていた頃のことである。

その後、あっという間に過ぎた時間のおかげで、すっかり分別顔が上手になり、要領も良くなった。今では好き勝手に快適に暮らしているが、それでも無器用だったあの時代を思い返すと「サウダージ!!」である。

どうしたって過去をふり返れば、ああすれば良かった、こうすべきだった等々、後悔の気持ちが強くなる。それは当然だろう。

後悔の根本を笑い飛ばすぐらいじゃなきゃ大人の嗜みに欠けるが、ブルーな気分だと、サウダージも憂鬱モードに変化してしまう。

「こんなはずじゃなかった・・・」。私にだってそんな思いはある。いっぱしの年齢の大人ならきっと誰もが経験する憂いである。

でも、人生なんてしょせんは「こんなはず」でしかなく、満面の笑みで迎えられる未来などなかなか存在しないのが現実である。

う~ん、サウダージである。

だからこそ、まだまだ半端な年齢だった頃の無邪気な時間を思い出して切なくなるのだろう。

ちっともその頃に戻りたいとは思わないのに、無性に愛おしく思い出す時代。そんな時代を持っていることは幸せだ。

先日、80年代前半の、それこそ小林克也がベストヒットUSAでノリノリだった頃の洋楽と、当時のややマイナーな邦楽をガッツリiPodに収録して、カーオーディオにつなげて半日ドライブしてみた。

サウダージバロメーター全開である。

POLICE、REO SPEEDWAGON、 CHICAGO、KOOL&THE GANG、HALL& OATES、AIR SUPPLY、RICK SPRINGFIELD等々、書き出したらキリがないほどだ。

邦楽は、佐野元春、門あさ美、レベッカ、山下久美子、須藤薫、EPO、安部恭弘、村田和人などなど、これまた今になって聴くとなかなか新鮮だったりする。

それぞれの楽曲を聴いていると、当時のささいな出来事を思い出す。本当にどうでもいいような記憶ばかり甦るのが不思議である。

青春時代特有の胸がキュン?としたことや衝撃的だった事件なんかはちっとも浮かんでこない。

飲み過ぎてゲロを吐きまくった場所とか、同伴喫茶で隣のカップルからお金を借りた話とか、ロクでもないことばかり思い出す。それも普段は忘れていることばかりなのに、昔聴いていた音楽によって急に覚醒するから謎である。

切なすぎるサウダージはしんどいが、甘酸っぱいサウダージならいくらでも味わいたい。長く生きている以上、ポジティブなサウダージを楽しむことは一種の特権だと思う。

ポルトガル。遅くとも来年には行こうと思う。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ポルトガル在住です。いつも楽しく拝見させていただいています。

年齢が近いせいか貴方の好みが私と多分に近いようで、食の話題も旅のレポートも思わず「そうそう」とか「ごもっとも」などと感心しつつ読んでいます。

私もイタリアは大好きで、一度はあちらに住もうと下見旅行と称し三ヶ月滞在を三年続けて三回やったことがあります。本当にどこも美しくて食べ物も美味しいのですが、住むには余りにいい加減過ぎると諦め、ポルトガルはリスボンへ落ち着きました。

いいですよ、リスボン。是非一度おいで下さい。私もファド大好きです。夜中に起き出してノコノコ歩いてファドバーへ行き、明け方まで飲んだりします。地元オッサンの常連客が往年の名曲で泣き出すと、釣られてこちらも泣いたりします。渋いです。お薦めします。

では。

富豪記者 さんのコメント...

コメントありがとうございます!

リスボンで読んでいただいていたなんて感激です。

いやあ、それにしても「夜中に起き出してファド酒場に繰り出すような生活」だなんてカッチョいいですね!素直に憧れます!

今後ともよろしくお願いいたします。