2019年8月26日月曜日

夏の音色


子どもの頃、夏の高校野球が終わると何となく切ない気持ちになった。甲子園独特のサイレンの音や金属バットの音、ブラスバンドの音が、翌年の夏まで聞かれなくなることが淋しかった。

春のセンバツ大会でもあの音は聞こえるのに、不思議と甲子園の音は「夏の音」という印象がある。

甲子園だけでなく、いつの頃からか夏の音にはやけに敏感になった。四季それぞれを表す音色はあるが、やはり季節を感じさせる音が多いのは夏だ。



代表的なのが風鈴だ。マンション住まいになってから風鈴と縁遠くなってしまった。あの音色に癒されたくても近所迷惑だろうから買いたくても買えない。

先日、寝る前に短編小説をボンヤリ読んでいたのだが、風鈴が主題のしっとりした話だったので、私の中の風鈴欲求ストレスが爆発した。さっそくAmazonで南部鉄風鈴を二つも買ってしまった。

熱帯夜対策として小型扇風機を夜の間つけっぱなしにしているから、室内でも風鈴の音色は楽しめることに気付いたわけだ。これで私の精神衛生状態は格段に向上するはずである。



話がそれた。夏の音についてだ。

ヒグラシの鳴き声は夏の終わりの郷愁を誘う最高のBGMだと思う。時々、YouTubeでわざわざヒグラシの音色を聞くことがある。

https://www.youtube.com/watch?v=Z-KNyeryzj0&t=31s

あれほど胸に染みる音色はなかなか無い。郷愁という言葉だけでは表現しきれない。日本人の感性に訴えかける独特の響きだ。

夕陽を眺めながらあの音に包まれて過ごせば、悲しいことがなくても涙を流す自信がある。そんな自信があっても仕方ないが、必ず泣けると思う。

それにしても、YouTubeのおかげで、聞きたい音が簡単に聞けるのは有難い。ヒグラシの音色はもちろん、花火の音、祭り囃子、夏の夜の風情たっぷりなコオロギの鳴き声だって聞ける。

今の私は防音性が高いマンションに暮らし、エアコン漬けで窓も開けない日々だ。都会では多くの人が似たような環境で暮らす時代だ。

昔は自然と耳にした「音」を感じなくなっているわけで、ネット上でそんな音をわざわざ探して喜んでいるのは一種の文明病みたいなものだろう。人として退化している部分なのかも知れない。

もうすぐ8月が終わる。この時期になると独特な寂寥感がある。そんな雰囲気を楽しんで身悶えるのが私にとってこの季節のルーティンになっている。

室内で風鈴を鳴らし、パソコンでヒグラシの音色を聴く。ヘンテコだが、それはそれで「いとおかし」である。

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