2020年6月29日月曜日

「はし本」「煉瓦亭」 味覚の話


「あの店の焼き鳥は絶品」「あそこ以外ではカツ丼は食わない」等々、味の好みは人それぞれである。味覚なんて気分で決まる要素が強いから正解はない。

私だって中学生の頃、野球部の夏練習の後,、グタグタに汗をかいた後に飲んだファンタグレープの味は今でも世界一だと思うし、同じ頃、初めての海外(グアム)で飲んだマウンテンデューの衝撃的なウマさも鮮明に覚えている。



日本での発売は1981年からだったそうだ。その23年前のことだから、まさに未知の飲み物だった。得体の知れないウマさに「アメリカってスゲー!」と妙に興奮した覚えがある。画像はネットで拾いました。スイマセン。

結局、環境や雰囲気、置かれた状況が味覚を大きく左右するわけだ。

先日、初めて訪ねた東京駅に近い老舗ウナギ屋「はし本」でガツガツとウナギを食べた。何が良かったといえば店の雰囲気だ。

八重洲のガヤガヤしたエリアだ。昭和の頃にタイムスリップしたかのような古い建物にシビれた。まさに“東京料理”を楽しむにはもってこいの雰囲気。

働いているオバチャン達の感じも、昔ながらのウナギ屋さんのイメージそのもの。モダンとかお洒落とかとは無縁の世界だ。



その昔のバブルの頃、やたらと気取ったカフェバーが街に溢れ、シャレオツなイタリアンや怪しげなエスニックレストランも全盛で、そんな流れに乗っかることが若者の基本みたいになっていた。。

高校生の頃にはハヤリモノやオシャレなことを追っかけていた私だったが、世の中が浮かれ始めたその頃になるとアマノジャク精神が頭をもたげてきた。

世の中の最先端とやらを気にかけることが急に小っ恥ずしくなってしまい、渋さや伝統みたいな世界に魅力を感じるようになった。ワンレンボディコンのオネエサンとのデートでもあえて浅草に行ったりした。

マルベル堂でモノクロのブロマイドを眺め、天ぷらの中勢やウナギの前川、ビーフシチューのフジキッチンや怪しげな釜飯屋あたりで「これがホントの東京だぜ」などと得意になって語っていた。

そんな偏った感覚の私にとって「はし本」の風情はドンピシャだった。正直に言えば、ここより個人的にウマいと感じるウナギ屋さんはいくつも知っている。それはそれである。

細かいことを言い出せばキリがないのだが、あの風情の中で、ウナギの香りを嗅ぎながら過ごす時間は妙に心地よかった。



白焼きのミニ串は蒸していない直焼で、鰻重の蒲焼きもあえて蒸しは弱めに作っているように感じた。これはこれでアリだが、私の好みではない。

でも、うざくやヒレ焼きや肴に冷酒をカピカピ飲んでいると「正しい日本の夏」を感じられて大満足だった。

別な日、有楽町で所用を済ませてふらふら歩いていたらハヤシライスが無性に食べたくなった。近くに洋食の老舗「煉瓦亭」があったので迷わず直行。

いわゆるニッポンの洋食が大好きなことや煉瓦亭の話はこのブログでも何度も書いてきた。

こちらも正直にいえば、もっとウマい洋食屋はいくつも知っている。でも、時折どうしてもこの店に入りたくなる。

気分の問題が大きい。何年前かは忘れてしまったが、初めてこの店を訪ねた時の印象が今も鮮明に残っているからだろう。

「古き良き東京の洋食屋」というイメージそのものだったことに感激した。杉並区出身という中途半端?な私である。“銀座のハイカラ”には無条件で魅力を感じてしまう。



必ず注文するのがコキールだ。この店の特徴といえばタマネギだ。ざく切りの加減が大きい。違和感と呼べるぐらいのサイズだ。

でも私はこれが好きだ。目隠しされて食べ比べてもこの店の料理だと分かる。見方によっては雑なようにも思うが、きっと何らかのポリシーがあるのだろう。

ざく切りタマネギがウマさを引き立てるチキンライスやハムライスも捨てがたいのだが、この日の気分はハヤシライスである。やはりタマネギはデカい。



実に濃い味付けだ。苦く感じる一歩手前と言ってもいい。西洋料理を白ご飯に合わせるためにアレンジしたのがニッポンの洋食の定義だとしたら、まさにその通りの味だ。

店の雰囲気も私が大好きな「タイムスリップ系」である。銀座の一等地でウン十年前そのままの調度品に囲まれて過ごすことこそがこの店の醍醐味だと思う。

雰囲気と気分。味はこれで決まる。私の個人的な思い入れで書いているわけだから、人様に押しつけられる話ではない。

人によっては今日ここに書いた2軒とも美味しくないと感じる人もいるだろうし、逆にここでしか食べないというファンもいるだろう。それでいいのだと思う。

店を出て腹ごなしに歩いていたら15分もかからず帰宅できた。杉並区に暮らしていた20代の頃はやたらと遠く感じた煉瓦亭が今は徒歩圏だと改めて気付いて妙に嬉しい気分になった。

こんな喜びも味の感想を左右する。そんなもんだろう。

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