いわゆる「ニッポンの洋食」が好きになってウン10年。いや、物心ついたときから大好物だったような気がする。
カニクリームコロッケ、ビーフシチュー、グラタン、オムライス等々、いまやごく普通の日常食とも言えるジャンルだが、明治の近代化の際にハイカラな食べ物として珍重されたラインナップである。
安い定食屋でも美味しく食べられるが、結構な値付けで上質に仕上げる「本気の高級洋食屋」の料理を前にすると私はいつも感涙にむせぶ。
そうした上質な洋食屋さんだとオムライスやクリームコロッケが3千円だったりする。その物珍しさ、いや、店側の矜持や志の高さに惹かれる。Mっぽい私ならではの感覚だ。有り難くムホムホ食べまくってしまう。
大学生の頃から、いわゆる高級洋食屋に行き始めた。当時は今より財布に余裕がなかったからメニューを選ぶのが一苦労だった。バンバン頼んじゃう今とは大違いだった。
名店と呼ばれるお店にも随分と出かけた。根岸の香味屋、銀座のみかわや、資生堂パーラー、銀圓亭、日本橋のたいめいけん、赤坂の津々井、麻布のグリル満天星、上野広小路のさくらい、浅草のグリルグランド等々、書き始めたらキリがない。
若い頃は麻布のグリル満天星に行くとナゼか誰かしら女優さんが食べに来ていて、その姿を覗き見しながらドキドキした覚えがある。ふわトロオムライスという画期的な逸品を覚えたのも35年ぐらい前のあの店だった。
赤坂の津々井では名物のビフテキ丼が食べたかったのに当時の私の予算ではなかなか厳しくて何度も我慢したことを覚えている。
というやたらと長い前振りになってしまったが、先日、また私の洋食熱を改めて一気に高める店を知ってしまった。
私にとって思い出のビフテキ丼が名物の赤坂・津々井の親戚店というか元祖の店が家の近所にあるのを発見。いそいそと出かけた。
「新川 津々井」がその店。八丁堀と茅場町の間ぐらいになるのだろうか。繁華街とはいえないエリアに佇む素敵な店だった。
地味目な外観に比べて店内はスッキリと上品で落ち着ける雰囲気。席ごとの仕切り方に工夫があるからゆったりと快適に過ごせる。
食べたものはすべて完璧に美味しかった。文句なし。前菜の牛タタキはマスタードソースが絶品、トマトサラダのドレッシングも抜群。シャブリのボトルも4千円台のお手頃価格。
カニクリームコロッケ、海老のコキール、タンシチューである。やはり美しいものは美味しい。どれも丁寧かつ精緻な味付けだった。
クリームコロッケは具のベシャメル部分が固めに仕上げてあるのが良かった。小さくカットすると中身がデロデロと溢れ出ちゃうのが普通だが、こちらの一品にはそれがない。味も凝縮している感じだった。
コキール、すなわちグラタンやドリアの上だけ?である。私はこれが大好きだ。マカロニやライスが入っているとメイン料理然とした感じになり、あれこれ注文したい時にはそのボリュームが引っかかる。
その点、コキールは“上だけ”だからメイン料理とは別枠の立ち位置だ。洋食屋さんでもう一品頼みたいとという欲求不満を解消するにはもってこいの存在だろう。
タンシチューのソースがまた官能的だった。苦みが出る一歩手前の豊かなコクがこのお店のレベルの高さを象徴している感じだった。デミソースの次元が凄そうだから次回はぜひハヤシライスを食べたい。
そして最後に登場したのがオムライスである。冒頭の画像の一品だ。奇をてらったところが一切無く、かといって今風に安直なトロトロだけをウリにするような仕上げでもない。キチンとした正統派と表現したくなる感じだった。
タマゴに包まれた肝心のチキンライスも繊細な味わいで言うことなし。テキトーな店のテキトーなオムライスだとチキンライスの部分に本気度が感じられずに残念な気持ちになるが、こちらのオムライスは真逆だった。
なんだかベタ褒めに終始してしまった。自宅から徒歩圏だというラッキーな感じ?も多分に私の印象に影響を及ぼしているかも知れない。いや、そんなことはない。冷静に思い返しても全部が全部ウマかったから大満足だ。
一人だとアレコレ注文できないのが困るが、今の暮らしには娘という頼もしき同居人がいる。二人なら大量に注文しても「食べ盛りの子供が腹を空かせているもんで・・・」などと言い訳も出来る。これは大きい。
ただ、年頃の娘はいつもダイエットダイエットと騒いでいるから大した戦力にならない可能性もある。仕方ないからこれから娘には「痩せすぎだぞ、細すぎるぞ、不健康だぞ」と言い続けてみよう。マインドコントロールされてドカ食いしてくれたら強力な助っ人になるはずだ。
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