「ヒレかロースか」。トンカツを考える際、この問題は避けて通れない。日本人なら誰もが一度は悩むテーマだ。
一般的に認識されているのは「ロースはジューシー、ヒレはサッパリ」である。それ自体はおおむね正しいが厳密にいえば間違いだ。ロースがパサパサのこともあればヒレがジューシーなこともある。
マニアックなほどではないが昔からトンカツが大好きで名店巡りも随分こなしてきた私も「ヒレかロースか」に対する答えはない。今でも悩む。
ごく乱暴に言い切るならば「店のレベルによる」というのが結論だ。こだわりの店とかではないごく普通のトンカツ屋さんならロースを選ぶのが無難。ヒレはサッパリどころかパサついていることが多い。
テキトーな店のトンカツは総じて揚げ過ぎる傾向がある。豚肉にはよく火を通すというセオリー通りである。ロースの場合、揚げ過ぎてパサついた肉の残念な食感や味は端っこに付いている脂身が誤魔化してくれる。ヒレだとその役割を果たす脂身がないからダメダメになる。
かといって、とかく不人気のヒレを見放してはいけない!!。店によっては断然ヒレのほうがウマいケースも珍しくない。そういう路線の店なら私は迷わずヒレを選ぶ。でもその店がそういう路線かどうかは一見では分からないのがトンカツ探検の難しいところである。
もっと言うなら「そういう路線」のトンカツ屋さんのロースには注意も必要だ。最上級の店の最上級のメニューを頼んでもヘタするとゲンナリしかねない。
こだわりの「そういう路線」のトンカツ屋さんには、「極上」「別格」「特上」などと名付けられた通常のロースカツとは別のロースカツが用意されていることがある。当然、値段も通常のロースカツより高い。
ところが、そういう特別クラスのロースカツはその多くが脂身の量が多めでオジサマ向けではない。普通のロースカツは端っこに脂身がついているだけだが、特別クラスの場合は全体にまんべんなく脂身が入っていることが多い。
もちろん、好みの問題だから一概に良し悪しは決められない。豚肉の脂身を何より愛している人なら満遍なく脂が混ざったトンカツに感激するのかもしれない。でも私にはキツい。
こういう贅沢な問題に直面してしまう上等なトンカツ屋さんの場合、逆にヒレがすこぶる美味しいという方程式も成り立つ。ヒレの場合には通常のヒレより上位に位置する「極上ヒレ」や「特上ヒレ」は言葉通りで非常にウマい。
東銀座にある「はせ川」の極上ロースと最上級のヒレ(メニュー表記はシャトンブリアン)の比較画像だ。ロースの脂身は中高年にとっては罰ゲームに近い。一切れ目は美味しく食べるのだが後が続かない。それに比べてヒレの素晴らしさは筆舌に尽くしがたいレベルだ。ヒレはパサパサという思い込みは吹っ飛ぶ。
こういう路線の店では、ロースはあえて最上位路線を選ばずベーシックなロースカツにすれば無難に美味しいトンカツが味わえる。
こちらは日本橋の「あげづき」の最上位のヒレと普通のロースだ。ロースのほうも最上位を選ぼうと思ったのだが、お店の人からの忠告もあってロースはあえてベーシックなものを選んだ。これは正解だった。
ロースも標準以上にウマかったが、最上級ヒレがとてつもなく美味しかった。上に載せた「はせ川」のシャトンブリアンも素晴らしいのだが量的に不満がある。「あげづき」の特上ヒレカツは衣にやや難点があったが量的にも優秀ですぐにでもまた食べたい。
いうまでもなくトンカツは揚げ加減も大事な要素だ。とくにヒレの場合、ちょっとした下限でシットリに仕上がるかパサパサになるかが分かれる。
こちらは銀座の人気店「梅林」の黒豚ロースカツ。普通に美味しかったがちょっと火が通り過ぎか。端っこに脂身が付く教科書的なロースカツなのだが、揚げ時間が数十秒違えば印象も変わるのだと思う。
他にもいくつか参考画像を載せてみる。揚げ加減はもちろん、衣の加減、肉と脂身のバランスなど自分好みのトンカツに巡り合うのは案外大変なことだと痛感する。
上から銀座の「あんず」の特上ロース、人形町「かつ好」の別格ロースと別格ヒレである。やはりロースの最上位クラスは脂身が多すぎて中高年向きではない。ヒレに関してもほんのり中心部がピンク色ぐらいが私の好みなのでこの画像の一品は少し惜しい感じだった。
今日もいったい誰の参考になるのか分からない話をつらつらと書いてみたが、茶色いトンカツの画像を寄せ集めていたせいで今日も明日もあさってもトンカツを食べたい気分になっている。
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