2023年10月4日水曜日

下町散歩 人形町


私の生まれ育ちは東京の荻窪だ。良いところだと思うが東京の中でも中途半端?な場所でもある。山の手でも下町でもない。ビミョーな立地である。


祖父より上の先祖は浅草界隈の人だったから個人的には山の手より下町に親しみを感じる。若い頃はダウンタウンボーイという佐野元春の歌をよく口ずさんでいた。


そんなこんなで昔から下町散歩が好きだ。文京区に住んでいた頃にも谷中、根津、千駄木あたりをよく散策していた。なんてこと無い路地を縫うように歩き築ウン十年の古い建物を眺め、そこで営まれている暮らしを想像したり、年季の入った喫茶店で一休みしてから老舗の寿司屋、蕎麦屋などを覗くのが楽しかった。

 

前の住まいは八丁堀の隅田川に近いエリアだったから、ぶらぶらと永代橋を渡って門前仲町をあてもなく散策するのが好きだった。豆菓子を買ったり深川めしをかっ込んだり、甘味処でのんびりしたり、怪しげなレコード屋さんのラインナップを眺めたり、あの街は私のレトロ志向を満足させてくれた。

 


 

今年の春からの住まいは三越前駅に近いのだが、そっちとの反対方向には人形町がある。人形町もまたレトロ志向というか、昭和感に浸りたい私の心をくすぐる街だ。

 

田舎から出てきた若僧が憧れるオシャレな雰囲気とは一線を画しているのが良い。都内各地のオシャレ指数(何じゃソレ?)が高いエリアはそれはそれで東京っぽいのだろうが、あれは土着の東京とは違う。

 

あっちは地方から東京デビューしてイキっていた人たちが築き上げた新興の“トーキョー”である。江戸の名残りを感じる東京とは別なイメージだ。私が好きなのは当然昔ながらの東京だから自ずと江戸文字で表記するのが似合う街ばかり興味が湧く。

 

というわけで最近は門前仲町通いをしなくなった分、人形町通いに精を出すようになった。小物屋さんを覗いたり甘味処で茶をすすったり、目に入る和菓子屋にはついつい吸い込まれる。

 

家で食べるスイーツもすっかり和菓子が増えた。最近よく買いに行くのが水天宮よりの「三原堂」。季節ごとにニクい和菓子を揃えている。他にも甘酒横丁の入口の「玉英堂」や東京三大鯛焼きの一つとも言われる「柳屋」、他にも売り切れ必至のどら焼きの「清寿軒」、小さいお店でも「縫月堂」「彦九郎」など書き始めたらきりがない。

 

観光客向けかと思って食べてみた「重盛の人形焼」も思った以上に美味しくてビックリした。この界隈は和菓子好きには天国みたいなエリアだと思う。

 

有名料理店にしても鶏鍋の「玉ひで」(改装中)、すき焼きや鉄板焼きで人気が高い「今半」や「日山」、江戸前鮨の名店「㐂寿司」、ねぎま鍋で人気の「よし梅」、洋食の名店「芳味亭」などの高級路線からそれこそ数え切れないほどの居酒屋や大衆酒場がテンコ盛りだ。

 

ヨレたTシャツに薄汚れた短パン、サンダル履きで散策している私は気軽な店ばかり覗いてしまう。まだ高級店を攻めきれてない。富豪と名乗る割にはどうでもいい店ばかり探検している。

 

この街を歩く時は一人散歩か娘と二人である。テキトーな店に入ってそこが当たりだった時の喜びを求めてさまよっている。「どうでもいい店」と書くと失礼極まりないが、「知る人ぞ知る店」を求めてさまよっているわけだ。

 



 

先日、ふらっと入った大衆割烹「京家」は絵に描いたような昭和レトロ感が漂う風情。かの吉田類も訪ねた店だとか。ユッケなどくじら料理も各種取り揃え、気の利いたメニューがたくさん揃っている。オジサマのオアシスそのものだった。「人形町っぽい」と言いたくなる小粋な空間だった。

 

別な日に入った居酒屋はフレンチ経験のある主人がジャンルに囚われないウマい料理を出してくれた。残念ながら店の名前を忘れた。㐂寿司のすぐ近くだった。ホッケの干物と上質な牛粗挽きハンバーグを一緒に食べられるような快適な店だった。

 



つい先日、夕飯にサッパリしたものが食べたくなって一人で人形町界隈をぶらついた。酒を飲みたくなかったので適当な店が思い浮かばない。頼みの居酒屋系もノンアルだと収まりが悪いし、その他の私が入りたい店は酒が前提みたいなところばかりである。

 

で、通りすがりに「普通のお蕎麦屋さん」が目についたので突撃してみた。「松竹庵」といういわゆる街場の蕎麦屋だ。ところが、メニューには気の利いた蕎麦屋的つまみが揃っていた。カツ煮まである。危うく飲みそうになったが何とかこらえて「冷やし鶏天そば」を注文する。

 



蕎麦自体は特徴もなくごく普通だったが、鶏天ぷらはちゃんと揚げたてで、つゆも辛めで悪くなかった。凛としたイマドキの高級蕎麦も捨てがたいが、こういう国民食的なフツーの蕎麦はやはりホっとする。

 

ちゃんと蕎麦湯も出してくれるし、そういう基本的な部分を手抜きしない点が良い。古い街だからこそのコンサバ志向が私のような世代には心地よい。

 

また別な日、人形町の目抜き通りにある「どうでもいい感じのラーメン屋」に入ってみた。なんてことのない造りで店名もベタに「人形町ラーメン」である。通りすがりに常に客が入っているので気になっていた店だ。

 



豚骨醤油が基本の味みたいだが、ノンポリみたいにいろんなメニューがあるところが逆に普通っぽくて良い。私は当然チャーシュー麺、一緒にいた娘は油そばを注文。ごちゃ混ぜにして食べるこの油そばが妙に美味しかった。専門店より上じゃないかと思える味だった。

 

ラーメンに美しさやモダンな感じ、凝りすぎたこだわりなどは不要だと信じる私のような昔の人間にはなかなか快適な店だった。イマドキのラーメン界隈においては「どうでもいい感じの普通」ってなかなか貴重かもしれない。

 

何だか誰に参考になるのかサッパリ分からないような話に終始してしまった。とりあえず“ご近所自慢”だと思ってご容赦ください。

 

 

 

 

 

 

0 件のコメント: