2022年11月7日月曜日

居心地の話


外食中心の私にとって夜はどこの店に行っても晩酌の時間だ。牛丼屋でさっさと食べて帰るようなパターンはない。そういう速攻メシは家に直帰してドカ食いする。

 

というわけで外食で行く店ではたいていが長っ尻になる。1時間ちょっとで済ませることもあるが、1時間半~2時間が普通だ。居心地が良いかどうかは大きな問題である。

 

ちょっとしたお寿司屋さんで過ごす際には一応そこそこモノが分かったオジサマを装う。食通ぶるほどではないがいっぱしの客を演じる。だからちょっとだけ背筋に力が入る。

 

恥ずかしながら私には自意識過剰な傾向がある。若い頃から寿司屋のカウンターに陣取った時には「貧乏な客だと思われたくない」という意味不明な見栄のせいでやたらと大量に注文したり値付けの高いメニューばかり頼んだりした。バカである。

 

一人メシが多いせいで今も多少は気を遣う。一人客の私のせいで店側は二人客を断ることもあるわけだからあまりミミっちい注文は出来ない。気配りの人なのか小心者なのかビミョーだが、それが私の主義だ。

 

そんなことを意識するからお寿司屋さんのカウンターは居心地の点では第一位にはならない。もちろん馴染みの店で過ごす時間は心地良いのだが100点満点とはいかない。

 



女子を連れて食事に行くのも悪くないが、私もまだまだ男である。いくつになっても邪念が頭をかすめる。すいませんウソをついていました。頭をかすめるのではない。邪念が頭の中のすべてを占める。

 

だから当然に居心地という点ではどの店に行こうがたいして良くはない。のんびりホゲホゲした気分にはならない。何とも情けない話だがそれはそれで枯れないためには必要な心構えだから仕方がない。居心地論を語る上では女子連れは問題外かだろう。

 



気取らない大衆酒場でハムカツやモツ焼を頬張るのも楽しい。それこそ何も気にせず呑気に過ごす。とはいえ、そこはいっぱしのダンディーぶった紳士を気取りたい私である。いつまでもその種の店に長居してはいけないような変な強迫観念がある。

 

その昔、池袋の怪しげな大衆酒場のカウンターでのこと。隣に座っていた見知らぬオッサンが一人でジンワリと涙を流しながら吞んでいる姿にビビった記憶がある。

 

漂ってくるのはバリバリの負のオーラだった。最後の晩酌を済ませてその後すぐにでも自殺しちゃいそうな疲れ果てた雰囲気だった。呑気に過ごしていた私は自分のエネルギーを吸い取られるような気持ちになった。

 

それをきっかけに場所が持っている固有の「気」みたいなものをちょっと意識するようになった。それこそ繁盛している銀座のクラブならプラスのエネルギーに満ちた人々が集っている。一種のパワースポットみたいな「気」を感じる。

 


その池袋事件以来、大衆酒場にドップリと浸かりすぎてもいけないというブレーキがかかるようになった。だから大衆酒場が大好きでも居心地は100点満点とはいかない。難しいところだ。

 

チェーン店の元気な居酒屋ならそんなドンヨリ感はないが、あれはあれで若者が集う店である。いい歳した私のようなダンディーで素敵な?オジサマはそもそも店のターゲット層ではない。したがって居心地の点では問題外である。

 

で。結局はそこそこの小料理屋や個人経営の小体な大人向け居酒屋あたりが居心地という点では最上位になる。馴染みのない店は落ち着かないが、常連になり過ぎちゃうのも時にうっとおしいこともある。プチ常連ぐらいがちょうどいい。

 



時々しか行かないのに一応こちらの名前や顔を認識してくれて距離感が適度に保たれているような店だと必然的に居心地は抜群に良くなる。

 

私にとってそんな店の一つが新橋にある「酒処かとう」だ。新橋の雑踏の中ではなく銀座8丁目のすぐ隣にある。夜のクラブ活動に出向く前にも便利だ。

 

初老の男性2人が切り盛りしている。メニューはホワイトボードに手書きで値段は書いていない。でもとくに高いわけではない。食べ物は定番以外に季節モノや中華風の一品など選ぶのに迷うぐらい用意されている。

 

物凄くウマいというわけでもない。でもマズいわけでもない。とりあえず満足出来る水準で手作り感がホッとする。寒くなってくると私はこの店の肉豆腐が恋しくなる。

 



牛丼に入っているようなバラ肉がドッサリで豆腐を主役にネギ、タマネギ、タマゴ、しいたけなどが脇を固める。味付けは昭和の東京っぽい甘すぎるぐらいの濃い味だ。焼酎のお湯わりを片手にこれを突いていると幸せな気分になる。グルメだ食通だといったジャンルの外でしっかりと大人を満足させてくれる。

 

最近はポツポツと夜の銀座にも足を運ぶようになったからこの店にお世話になる場面は増えそうだ。ただ、この店に行くと居心地が良すぎてホゲホゲし過ぎるのが難点でもある。しっかり飲み食いして満足してしまいそのまま帰宅しちゃったことも何度かある。

 

それもそれでお財布には優しい結果になるから悪くはない。書いているだけでまた肉豆腐とクジラベーコンで一献傾けたくなってきた。

 

 

 

 

 

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