2012年7月23日月曜日

本を読んで絵を見る

読書と絵画鑑賞などというと、ありきたりな釣書に書いてありそうな感じだが、一応、私も読書と絵画鑑賞が好きである。

などと書くと大げさだが、寝る前の読書と暇つぶし?の絵画鑑賞は日常の中で一服の清涼剤になる。

読書といっても、肩の凝らない短編小説とかルポとかをパラパラすることが多い。長編小説は、読み切らずに間が開くとすっかり読んだ部分を忘れちゃうから、一気に読めそうな時だけ手にする。

で、先日読んだ長編小説に魂が震えた話を書く。

長編といっても複数の人物の人生が交錯するオムニバス的な要素もあったので短編を気軽に読み進むような感覚で楽しめた。

楽しめたと書いてみたが、途中からゾッとしたり、うるうるしたり、呆然としたり、何かと心の動きが忙しくなった。


浅田次郎の「降霊会の夜」という作品だ。オカルトとかファンタジーとか、そういうジャンル分けに収まらない人間の葛藤を描いた実に深い内容だった。

本の紹介コピーには「至高の恋愛小説であり、一級の戦争文学であり、極めつきの現代怪異譚――。まさに浅田文学の真骨頂!」とある。

そう言われても分りにくいが、まさにそういうこと。

中年の男がひょんなことから謎めいた女性に連れられて半信半疑で降霊の儀式に臨む。そして男が忘れようとしていた人間達の魂が次から次に男の知らなかった葛藤を語りはじめるというストーリー。

降霊とか霊魂などと書くと一気にありきたりのホラー系、オカルト系を連想させるが、作者の力量のせいで、そんな超自然的な素材でも違和感なく心に染みるストーリーに仕上がっている。

実に面白かった。いや、面白かったという表現は的確ではない。読んでいる最中から、高揚感とか感動とか、そんな普通の感覚では説明しきれない「魂が震えるような感じ」に包まれた。大げさだが、私にとってはそんな印象が強かった。

読み終えた後、深夜なのに部屋で体操してしまった。そうでもしないと何者かに押し潰されそうな変な感覚があった。実に力のある小説だと思った。

「鉄道員(ぽっぽや)」はもちろん、「壬生義士伝」とか「天切り松」とか、ジャンルを問わずに卓越したストーリーテラーぶりを発揮する著者の力量に改めて驚愕の思いだ。

この人の作品のせいで、小説家になりたいという淡い夢をあっさり諦めた人は多いんだろうなあと思う。プロの力量は凄まじい。

本の世界がもたらす一時的なトリップ感覚は麻薬みたいなものだ。自分好みの作品に出会うと純粋にその世界に入り込める。束の間の非日常感は少なからず自分の感性を刺激してくれる。



さて、絵画鑑賞に話題を移す。エラそうに書いているが、芸術的感性などカケラも持ち合わせていないから、絵に関する難しいことはサッパリ分らない。

それでも自分の眼が引き寄せられる作品に出会うと、読書と同じで束の間だが異次元にトリップできる。

前衛絵画はサッパリだし、宗教画も興味ない私としては、ただ単純に分りやすくさりげないトーンの絵が好きだ。

光の明暗を繊細に描いているような作品にはついつい目が向く。昨年パリに行った際にガラにもなく美術館をあれこれめぐったのだが、どうしても光彩の微妙なタッチにばかり興味を持った。

http://fugoh-kisya.blogspot.jp/2011/07/blog-post_20.html

そんな私だから、職場から徒歩5分の所で開催されていたフェルメールの作品展はとても有難かった。この暑い中、遠方まで絵を見に行くのも億劫だし、休日の大混雑もイヤだ。ものぐさ太郎としては平日にちょろっと見に行けたことが何より。

フェルメールの作品展は、昨年秋に京都に行った際に見る機会があった。

http://fugoh-kisya.blogspot.jp/2011/10/blog-post_19.html

今回見た作品群は、「リ・クリエイト」だそうだ。模造、模倣でもなく、洗浄や修復でもないと謳っていたが、あくまでホンモノではない。

最新のデジタル技術を駆使して画家の思いが宿った細部までを表現し直したものだという。なんだかよく分からないが、そういうことらしい。

確かに微妙な色彩や、光の表現が実に美しく感じられた。経年劣化そのものを絵の味わいだと思う人にはダメだろうが、素人である私はこれでもOKだ。




会場での作品解説もiPodが用意されていた。日本でいえば江戸時代の画家の作品が、デジタルの恩恵でイキイキと輝いていた感じ。

何もないキャンバスにあれほど精緻に光の神秘を描いた作品はボケッと見ていても飽きない。白い壁を微妙な白色で描く繊細さも凄いと思う。

2枚目の画像の耳を飾る真珠の光具合も圧巻だ。劣化した絵とは違うデジタル再生ならではの面白さだろう。

ちなみに光にこだわった画家としてはフェルメールよりもレンブラントのほうが印象が強い。奇しくも同じ17世紀オランダで活動していたという共通項がある。

以前、カリブ海からヨーロッパに飛ぶ旅行をした際に、1日だけ立ち寄ったアムステルダムで、眠い目をこすりながらレンブラントの「夜警」を見に行ったことがある。

「明暗の魔術師」が残した想像以上に大きな作品に圧倒された。吸い込まれそうな感覚に陥ったことを覚えている。

小ぶりな作品の中で静かに光線を操ったフェルメール、ドラマチックな作品の中で光と影を描いたレンブラント。それぞれの面白さを気軽に堪能できる現代に生きていることは幸運なのかもしれない。

電気のない時代に生きた二人には、ネオンきらめく現代文明の光がどのように映るのかなどと考えながら見てみるのも楽しい。

なんか陳腐な評論もどきになってしまった。すいません。

いずれにしても、本と絵は、楽しむ上で何も準備も要らず、段取りも不要な手軽なツールであり、束の間でも乾いた日常に潤いを与えてくれる。もっと積極的に楽しまないともったいない気がした。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

私もフェルメールを見に行きたいのですが
貴兄が言った日は平日だったのですか?
平日は絵画をゆっくり見る時間は取れそうでしょうか?

千葉在中

富豪記者 さんのコメント...

池袋でのフェルメール展は先週ぐらいで終わってしまったはずです。

平日でしたが、そこそこ混雑してました。

匿名 さんのコメント...

情報ありがとうございました


貴兄のブログ毎回面白く読ませて
もらっています

きっかけはおすし関係で検索していたところ
貴兄のブログにたどり着いて
それからずっとよんでいます

今後も裏表ない話に期待します

富豪記者 さんのコメント...

匿名様

ご愛読ありがとうございます。
お役に立つような話題があればいいのですが、書き散らかしばっかりです。

今後ともよろしくお願いいたします。