8月が終わった。夏の終わりだ。猛暑がキツかったから誰だってバンザイ三唱したいはずなのに、なぜか少し切ない。
切ないというか、切ない気持ちになりたがると言ったほうが的確かもしれない。
晩夏の寂寥感。実に不思議だ。
秋は素敵な季節だからワクワクすべきなのに、夏の終わりの寂しさの方にばかり意識が向きがちだ。
もしかすると国民全員の心に刻み込まれている「夏休みが終わってしまう残念な気持ち」が元凶ではないだろうか。
確かに子供の頃は8月も後半になると、ただただ寂しく感じた。セミの声も変わり、雲の形、夕方の風の匂いも変わっていく。
甲子園の決勝戦が終わり、閉会式で「雲は湧~き、光あふれて~」と大会歌が合唱されると、どんより気分になったことを覚えている。
そして8月も後半になると、「もう遊んでられないぜ」という意識が、夏の終わりを特別なものに感じさせるのだろう。
「ひと夏の恋」という言葉がある。概念というより実際に多い現象だとか。
花火や海水浴といった非日常的イベントがドーパミン放出の元となって、軽いトランス状態のせいで開放的になるのが科学的な原因らしい。
お説ごもっともだが、簡単に言えば、子供の頃に心に刻まれた「今の時期は遊んでていいですよ」という刷り込みが根っこにあるはずだ。
だから、「ひと秋の恋」は成り立たない。「夏休みが終わったのにまだ遊んでんのかボケ」と叱られそうだから、ついつい読みもしない本を広げて読書の秋だなどとうそぶく。
一種の刷り込みの怖さだろう。
秋は実りの季節であり、気候も穏やかだから、どんどん恋をして陽気に過ごしたいものだ。「ひと秋の恋・普及促進実行委員会」を結成したいぐらいだ。
せっかく神様が、人間には発情期を決めないでくれたのだから、夏に限らず秋も冬もそんなことを考えていた方が生産的?である。
秋や冬なら汗ビチョビチョの場面も減るし、人肌が恋しくなるから恋するにはもってこいだ。つくづく秋が恋の季節にならないのが不思議だ。
やはり、夏に終わる恋の疲れのせいだろうか。脳ミソが小休止すべしと指示するタイミングが秋なのだろうか。
思い返せば、私自身、恋を始めたり、恋を終了したのは確かに夏が多かった。ひと夏の恋とかも年齢相応に経験した。
始めるのも終わるのもエネルギーが必要だから、自然界すべてにエネルギーが満ちあふれる季節に人間も恋愛活力を活性化させるのだろう。
そして、エネルギーが少しづつ確実に弱っていく夏の終わりの切なさに、束の間の恋愛行動の終止符を重ね合わせたくなるのかもしれない。
人間は時におセンチな感情を好ましく感じる生き物だ。終わりかけの男女関係なら、罵りあいや殴り合いより、切ない空気に持っていったほうが賢明だ。
「切ない自分」に酔う自己愛にも似た感覚に陥るとマヌケだが、そうでなくても無意識のうちに夏の終わりの寂寥感に自分の切なさをトレースしたくなるのだろう。
小田和正が率いたオフコースの昭和50年代前半の作品に「夏の終わり」という曲がある。
♪ 夏は冬に憧れて 冬は夏に帰りたい
~ ~ ~ ~
駆け抜けてゆく 夏の終わりは
薄れてゆく あなたの匂い ♪
まさに「薄れていく」という部分がカギかもしれない。
夏の特徴は、日差しや虫の声、草木の匂いなどすべてが強力だ。季節が変わる頃にはそれらはすべて弱まり薄くなっていく。
「薄れてゆく」感じが寂しさにつながる。
「薄くならないでくれ~」と叫んでも思い出は薄くなっていく。
髪の毛に問題がある人なら凄く良くわかる切ない感覚だ。
夏の終わりを歌った名曲は数々あれど、これまた昭和の頃、爆風スランプが絶叫していた「リゾ・ラバ」も印象的だ。
♪ 全部嘘さ そんなもんさ
夏の恋は まぼろし
季節変わりは
ちょっとね 身悶える ♪
よくわからないが、夏が終わる頃になると身悶えるわけだ。「季節変わりは、身悶える」・・・。ウマい表現を思いついたものだ。
確かに秋の終わりや春の終わりには身悶えない。夏の終わりだけが、ザワザワした気分になりやすい。
まあ脱皮するときにもゴソゴソ悶えながら殻を破るわけだから、季節が変わって新しく動き出すのは、脱皮する感覚に近いのかもしれない。
私の場合、自分が秋に生まれたせいもあって、夏の終わりの寂しさに身悶えるより、自分の季節の到来が素直に喜ばしい。
夏の終わりの切なさに浸ってるヒマがあったら、秋の爽やかさを楽しむほうが建設的だろう。
なんてったって、もう暑いのはウンザリだ。クーラーに疲れた身体を温泉にでも行って癒やしたい。さっさと涼しくなってもらいたい。
ちなみに、そろそろスーパーの店頭から冷やし中華が撤退を始める。忘れずに買いだめしないといけない。
秋の虫の声に包まれ、山下達郎の「さよなら夏の日」でも聴きながら、少しセンチな気分でズルズルかっこむ冷やし中華。
これが夏の終わりを実感する私の秘やかな楽しみである。
2013年9月2日月曜日
夏が終わる
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