2008年2月28日木曜日

相続税の税務調査


相続税がかかる人は、亡くなる人が100人いればそのうちの4~5人。そして相続税を申告した遺族に対して、税務署が調査に来る割合はだいたい3~4割程度。

相続税の税務調査は上記したように、誰にでも関係する話ではない。ただ、相続税がかかる程度の家庭であれば、他の税金とは比べられないくらい高い確率で税務調査のターゲットになる。

3~4割の確率といえば、イチローがヒットを打つぐらい普通のこと。相続税申告のうち、内容があまりに単純明快で遺産総額もギリギリ課税対象になるレベルのものなら調査対象になりにくい。

そう考えると、そこそこの企業を経営し、遺産内容もキャッシュ以外の不動産や自社株、各種投資用品なんかがあるケースでは、申告後、税務調査が当然のように来るものと考えた方が無難だ。

一生に一回とはいえ、それなりのオーナー経営者にとっては、実は相続税調査は非常に身近な存在だ。

税務調査、税務調査官がやって来るといっても、真面目に申告していれば何も問題はない。表面的にはそうだ。でも実際は違う。相続税の税務調査の場合はとくに違う。

真面目に申告したから問題ない、何もやましいことをしていないから問題ない、という感覚が通用しない世界だ。国税当局の公式データでも、相続税調査が行われたら、ほぼ9割から申告もれが見つかっている。その平均額は1件につき1千万円に近い水準だ。

企業に対する税務調査であれば、すべての金銭の流れが記帳されており、勘定科目をめぐる解釈の相違とかはあるものの、真面目な経理が徹底されていれば、ポロポロ申告もれが出てくることはない。

一方の相続税、なにより一番詳しい人間が既にこの世にいない。欠席裁判のようなもの。おまけにプライベートなお金の流れに帳簿などはなく、実態が曖昧な資金の流れは多い。

わかりやすい例を挙げる。ずっと専業主婦だった未亡人の預金が、たとえば1千万円あったとする。当然、未亡人は旦那の相続税申告の際に、その預金は旦那の遺産だとは考えていない。あくまで自分の名義だし、何も考えずにそのままにしておく。

税務調査にきた調査官は、遺族の資産内容も確認する。当然、未亡人の預金は何を元に形成されたのかをしつこくチェックする。専業主婦なのに1千万円も預金があるのはおかしい。旦那の預金を単に未亡人名義にしてあるだけではと突っついてくる。

ちゃんとした説明が出来ないと、1千万円は単なる名義預金で、実質所有者は旦那だと認定されかねない。簡単に1千万円の申告もれができあがる。

口からでまかせで、「旦那からもらったんだから私のものだ」などと言おうものなら、贈与税の申告はしていたのかと、違う角度から突っ込まれる。

税務調査官は、その道のプロ。相続税の調査ばかり専門にやってきた職人だけに、突っ込みどころを無数に準備している。

遺族が故人の羽振りの良さを話したついでに、「ある時払いの催促なしで親戚にもお金を渡していた」といった話をしたと仮定しよう。貸した金は貸した金であって、あくまで貸した側のもの。税務調査官は、貸した金を返してもらう返還請求権が申告書に計上されているかチェックすることになる。

税務調査官は遺族との世間話からもアラを探そうとする。ゴルフが趣味と聞き出したのに申告書に会員権が計上されてなければ、申告もれを疑う。

また、故人の死亡までの流れを聞き出すにしても、長い間、病に伏せった後の死亡であれば、「生前に相続を見越した資産移動が可能だった」という解釈をする。

対する遺族側は、未亡人が対応することが中心。世情にうといおしゃべり婆さんだったりすると目も当てられない。余計なことをしゃべりすぎて、調査官を喜ばせる。

「顧問税理士がついてるから大丈夫」。この思い込みもまったく見当違いだ。税理士は遺族に言われた内容を申告書という形にすることが主業務で、税務調査の現場に立ち会っても故人のプライバシー、遺族の資産内容までは把握していない。税務調査で家族間の微妙な金銭の流れなどが問われる場面では、どうにもならなくて当然。

「ウチなんかに税務調査は来ない」、「隠しごとなんかしていない」、「真面目に申告している」、「税理士がついているから大丈夫」。
相続税の税務調査について楽観している人々の意見はこうした声に集約される。でも全部間違い。そんなに単純じゃあない。

まずは、税務調査の特徴や傾向、調査官の行動パターンなどを学習したうえで、然るべき対応を練る必要がある。

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