2009年7月24日金曜日

ホワイトカラーの税金

自民、民主の政策論争。はっきりその違いが分かる人は少ないと思う。断片的に主張していることの違いは分かっても、イデオロギー的対立が薄まった以上、当然の傾向だろう。

税は政なり、政は税なりとよく言われる。税制の方向性が国の舵取りを象徴するといった意味合いだ。

自民党も民主党も「消費税を廃止します」的な極論は口にしない。せいぜい増税のタイミングについて考え方が違うだけだ。

どちらか一方が「法人税を引下げます」、もう一方は「いやいや法人税は増税します」みたいな食い違いもない。大枠ではさほど隔たりがあるようには見えない。

税制をめぐる大胆な提言はまともな政党としては謳いにくい。万年野党で良ければ財源論抜きの減税政策だけ語っていればいいが、政権を狙う段階になるとトーンダウンする。

こうなると、当たり前でわかりきった、面白味のない税制提案が主流になってしまいがちだ。

最近の税制論議でまことしやかに言われている“定説”がある。


「終身雇用制度が崩壊した以上、退職所得控除は縮小すべき」。

「サラリーマンの給与所得控除は、実際に必要な経費より高額だから縮小すべき」。

いずれも政府税制調査会が取り上げているテーマでもあり、一見、もっともらしい素材ではある。

表立って所得税増税とは主張できないのが永田町、霞ヶ関のつらいところ。大衆課税の代表である所得税を“上方修正”することは政府サイドから見れば荒技だ。

税率を上げます、などと言えない以上、各種控除の縮小という形で増税を狙いたいが、この場合でも、増税という表現はまず使わない。

不公平の是正、時代に合わせた整理。。。こういった表現が中心だ。

「給与所得控除」を改めて考えてみたい。数千万人の納税者が適用されているポピュラーな制度だ。趣旨としては、サラリーマンが事細かに経費精算をしなくて済むよう、収入ごとに一定額をあらかじめ経費的なものとみなすもの。

ごく大雑把な表現だが、年収1500万円だけど課税所得は1千万円といった場合に、さっ引ける500万円の部分の多くが給与所得控除と考えれば分かりやすい。

給与収入1千万円超の人の場合、控除額は、「給与収入×5%+170万円」なので、給与収入1200万円の人を例にとると230万円が控除額ということ。

もちろん、累進制があるため、低収入の人ほど控除額の割合は高く、年収3~400万円程度だと給与収入の3割以上を控除してもらえる仕組みだ。

これがはたして必要経費として妥当な水準かどうかは人によって異なる。アクティブに動いている高所得者層にとっては間違いなく足りないだろうし、ボーッとしているだけの低所得サラリーマンにとっては多過ぎるという見方が一般的かも知れない。

自営業者に比べて、必要経費相当分をあらかじめフィックスされてしまうのはおかしいというのが“サラリーマン業界”の昔からの意見。税務訴訟も繰り返されてきた。

なんでもかんでも必要経費にしている(ように見える)自営業者のように自分達にも実際の必要経費計上を認めろという理屈だ。

そのため、国としてもガス抜きを目的にサラリーマンの実額経費申告を認める制度を作ってはいるが、まったく機能していない変な制度として知る人ぞ知る存在になっている。

「給与所得者の特定支出控除」というのがその制度だ。条件を満たせばお仕着せの給与所得控除ではなく、実額の経費申告を認めますという内容。

ところが、条件が厳しい。普通は越えられないハードルだ。まず、支出する費用が下記の5種類に限定されている。おまけに支出総額がその人の給与所得控除より多くなければダメという仕組み。

1 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出
2 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出のうち一定のもの
3 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
4 職務に直接必要な資格(一定の資格を除きます。)を取得するための支出
5 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出のうち一定のもの

一般的には会社が負担してくれる費用が中心。これらをすべて自腹で支出し、おまけに年間の出費が給与所得控除より高い金額になるケースは常識的に考えにくい。

例年、適用者はわずかに2人とか5人とかそういう問題外の水準にとどまっている制度だ。

わが社の新聞ではこの制度を以前から問題視しており、サラリーマンの「特例」どころか「得0(ゼロ)」と表現してきた。

わざわざ作った制度の適用者が全国で数人という実態はまさしく異常事態だと思う。にもかかわらず漫然と放置されたまま。

こういう実態を放置したままで、一方の給与所得控除の縮減に向けた議論だけが先走りはじめている。給与所得控除の見直しに踏み込む以上、ある意味で表裏一体ともいえる特定支出控除を根っこから見直す必要がある。セットで議論すべきテーマだろう。

むしろ、毎月の源泉徴収と年末調整で課税関係が完結するサラリーマン税制自体を見直す時期に来ている。

申告納税制度の基本中の基本は、自ら申告することにほかならない。現在のサラリーマン税制は計算も申告も納税も会社におまかせ。会社側も疑問に思わず、せっせとサービス労働にいそしむ。

その結果、自分の納税額も把握せず、税に関心ひとつ無いホワイトカラーが大量に生み出されたわけだ。なんだか先進国とは思えない構図だ。

次の選挙でどう転ぶか分からないが、歴史の転換点になるかもしれない選挙だ。今日、グチグチと書いたような内容が、近い将来、根本的に是正されるきっかけになればいいと思う。

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