2020年7月15日水曜日

寅さんイズム



この7月に寅さんシリーズの総集版とも言える「男はつらいよ・お帰り寅さん」のDVD発売に合わせて、Amazonプライムビデオでもレンタル視聴が始まった。

私もこの正月に映画館に行って観ようと思っていたのに、面白くなかったという感想を何人かから聞かされたので何となく見そびれていた。

この前の週末、じっくりと観てみた。ウルウルした。いい作品だった。面白いつまらないといった次元を超越した奇跡の映画だと感じた。

50年かけて積み上げられた最終形である。世界中探したってそんな作品は無い。

前田吟・倍賞千恵子演じる「博とさくら」などは50年前から同じ人が同じ役を時系列に沿って演じている。凄いことだ。



満男役の吉岡秀隆だって10才になるかならないかぐらいの頃からのキャリアだ。子供の頃から今の疲れた中年役まで本人がそのまま演じているのだから説得力という点ではピカイチだ。

この作品では満男の描かれ方が生命線だ。フニャッとした中年男とはいえ、随所で周りを気遣った痩せ我慢ぶりをみせる。

つまりそれこそが寅さんイズムである。満男の生き様の中に寅さんはしっかり生きているという意味合いがあるのだろう。

リリー役の浅丘ルリ子もすっかりお婆さんになっていたが、オカマバーらしき店のオーナーという設定が絶妙だ。上の画像が現在、下が回想シーンだ。




オープニングのテーマ曲は桑田佳祐が歌っている。ネット上のレビューを見ると随分と叩かれているが、あれはあれで良かった。


渥美清さんが亡くなったことでプツリと終わってしまったシリーズの最新版が満を持して作られたわけだから、オープニングにああいうドッキリ?を入れることは作品を見る前のわくわく感を高めてくれる。

ちゃんと本編最後にはキチンと本家・渥美清が歌うテーマ曲が流れるわけだから、桑田バージョンはあくまでこの作品がシリーズの中で特殊な位置づけにあることを際立たせていた。

寅さんシリーズの全作品を漏れなく観てきた私は、ややマニアックなファンである。そういう立場から言えば、この作品はケジメみたいなもので、作ってもらっただけで感謝の一言だ。

満男の中年っぷりが良かった。高校生の娘までいる。さくらと博はどう見たってお婆さん、お爺さんである。感慨深い。




満男の青春時代のマドンナ・後藤久美子の演技力はご愛敬だが、あの幼かった“泉ちゃん”本人が思いっきり老けた姿で登場したことに意味がある。

母親役の夏木マリの魔女っぽい感じが相変わらずだったのは嬉しかったが、父親役がなぜか寺尾聰じゃなかった点は残念だった。

あらすじは平凡だが、平凡だからこそ作品がジンワリ染みた。ちょっと大袈裟だが、生きることって途切れない一本のレールをなぞりながら歩いて行くようなものだと改めて痛感した。

思い出って何となくその部分だけが固有の独立した存在のように捉えがちだ。でも考えてみれば、思い出は決して人生の断片ではなく、いま生きていることそのものが思い出の延長線なんだと思う。

なんだかそんなセンチな感慨にふけりたくなる作品だった。

もちろん、こんな感想はシリーズ全作品を何度も繰り返し観たようなオタク的ファンだからのものである。

http://fugoh-kisya.blogspot.com/2012/10/blog-post_26.html

寅さんシリーズに詳しくない人が観たら退屈な作品だと評されてしまうだろう。あくまで寅さんファンのための作品だと割り切った視点で観ることをオススメする。

もちろん寅さんは回想シーンでのみ登場する。映画を観た人のレビューには寅さんの消息に触れていないことを消化不良だと指摘する声もある。

分からなくはないが、その部分を追究するのはヤボである。それこそ「それを言っちゃあおしめえよ~」である。

オープニングで桑田佳祐が歌い出すこと自体が寅さんはもういないというメッセージなんだろう。

今日は最近観た映画の話をいくつか書くつもりが、結局、寅さんだけに終始してしまった。

2 件のコメント:

道草人生 さんのコメント...

富豪記者殿

素晴らしいオマージュですね。僕も全く同感です。単発の作品ではなくて50年という時間を当事者たちが演じている奇跡、生きている人だけではなく亡くなった方も含めて。その時間を愛おしむ気持ちがこの映画を見ていて感動と深い余韻を残すように思います。

富豪記者 さんのコメント...

道草人生さま

ありがとうございます!これはもう普通の映画というジャンルを超えた作品ですよね。ファンにとっては良いケジメになった印象があります。