2014年2月21日金曜日

寂しき海老フライ


揚げ物。こう書くだけでヨダレが出てくる。「パブロフの犬」状態である。

若い頃の不摂生のツケで逆流性食道炎に困らされている私としては、揚げ物は禁断の味である。

禁断とか言いながら割としょっちゅう食べている。持病が無かったら一体どれほど食べてしまうのだろう。

何年か前に、とある女性の歓心を得ようとハッスルして、結局、フードファイト?状態になったことがある。

トンカツ専門店でのこと。ヒレカツ、ロースカツ、メンチカツ、カキフライ、その他諸々、やたらめったら注文して、最後のほうは二人とも無言で食べるはめになった。

私にとっては揚げ物はスーパースターみたいな存在だが、相手にとって好みで無かったのなら地獄の行軍みたいな話である。


この画像は、先日、ディープタウン・池袋のやきとん屋「木々屋」で食べた「レバカツ」である。半生のレバーが揚げられている。ひと噛みした瞬間、全身に稲妻が走った。

生きてて良かったと思う味だった。揚げ物のせいで胃酸が逆流して食道が焼けようが、レバーの食べ過ぎで尿酸値が急上昇しようが、これだけウマければOKである。事前に太田胃散、食後に制酸剤ネキシウムを飲んで対処する。

油で揚げる調理法自体は奈良時代ぐらいからあったらしい。その後、植物油の普及で一般化し、江戸時代の天ぷら文化に結実する。

その後、パン粉で揚げる「フライ」が登場、文明開化でトンカツやコロッケ、メンチカツなどにつながっていく。

そう書くと「文化を食らう」みたいな高尚な感じがする。どんどん食べれば文化的な人間になれる気がする。


揚げ物といえば、私にとってはトンカツが王様だが、なぜか今年に入ってから私の心をやたらと揺さぶるのが「海老フライ」である。

時々、お寿司屋さんでも生きた車海老をフライにしてもらうほど好きだが、このところ、どうも偏愛状態である。海老フライの精霊が私に宿ったかのように常に頭の中に海老フライが浮かんでいる。

謎である。

先日、度胸試し?に入ってみた「ゴーゴーカレー」でも海老フライをトッピングした。カレーのルーで食べるのかとヤキモキしたが、一応タルタルソースも用意されていた。

カレーもウインナーも御飯も美味しくなかったが、海老フライはウマかった。

前々から感じていたのだが、海老フライってどこか寂しいイメージがないだろうか。だいたい、あんなにウマいのに専門店を見たことがない。なぜだろう。トンカツ屋の余興みたいな位置付けである。


この画像の一品もビミョーである。某洋食屋でドライカレーのバックダンサーのような扱いを受ける海老フライである。突き刺さっている。その姿に尊厳はない。色モノ扱いされているようで不憫である。

海老フライは洋食屋におけるレギュラーメニューだが、あの世界ではビーフシチューとか、ハヤシライスあたりのデミグラスソース系が主役だ。

揚げ物に脚光があたる時でもカニクリームコロッケとか肉汁タップリのメンチカツに注目が集まり、海老フライがスター扱いされることは希だ。

「寂しき海老フライ」。ゆゆしき問題である。国民みんなで今後の海老フライの在り方について検討する必要があるのではないだろうか。


この画像もトンカツ屋のサイドメニューである。高田馬場の名店「成蔵」の海老フライ。軽めに揚がっていて海老の甘さもしっかり感じられて絶品。高級洋食屋もビックリのウマさである。

一本からサイドオーダーできるが、私が注文する場合は当然2本である。メインのトンカツより先に持って来るように頼む。こいつが出来るまでは水すら口に入れず沈思黙考。ひたすら待つ。

そして、揚げたての海老フライ様が運ばれてくると同時に生ビールを持ってきてもらう。禁欲的に待っていたストイックな姿勢がいよいよ幸福につながる。レジェンド・葛西選手の銀メダルのように待ち望んだ喜びが爆発する。

タルタルソースにちょこっとソースも混ぜてグワッシと海老フライに噛みつく。喉を通り過ぎたかどうか微妙なぐらいのタイミングで、待ってましたの生ビールをグビリである。

その瞬間、全世界を相手に勝利を収めたような気分になる。金メダルの表彰台に上った気分だ。

ひとしきりそんな喜びを味わった後でトンカツを食らう。まさに人類の叡智だ。緻密に計算された一大スペクタルショーである。揚げ物のある国に生まれて良かったと実感する瞬間である。

それが私の「揚げ物黄金律」だが、このところ急浮上してきた「海老フライ偏愛路線」が、王者トンカツの地位を危うくしそうな気配である。

老舗洋食屋に行って気の利いたオードブルでシュワシュワか何かをグビグビして、小皿サイズの濃厚なベシャメルソース系の料理につなげる。そしてメンチカツを中盤の口直しに投入して、最後に海老フライを選ぶ。

ウッシシな展開である。

日々、そんな妄想ばかりしている。海老フライに取り憑かれたみたいだ。

私が職場のパソコンに鬼気迫る形相で向き合っている時は、たいてい「ウマい海老フライの店」を探している時である。

今年、私は海老フライを100本ぐらい食べる気がする。

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