2007年11月1日木曜日

神楽坂の鮨とおばけ

東京で風情のある街といえば神楽坂。JR飯田橋駅から地下鉄神楽坂駅に向かう通りの左右に趣のある路地がいくつもあり、しっぽり系の店が並ぶ。

夜の路地はどこなく妖艶な感じが漂う。歴史のある街特有の気に満ちている。京都の祇園あたりもそうだが、花街としての歴史がある界隈は、どこか淋しげな気配がつきもの。

人通りがそこそこあっても、活気とはちょっと違う。妖気といったら大げさかも知れないがそんな感じ。逆にそうした「気」が、そぞろ歩きに非日常感をもたらす。

しょせん、私の神楽坂行きはアルコール摂取が最大の目的である。考えてみれば、酩酊、すなわち酔っぱらうこと自体が魔界をさまようようなもの。妖気に浸りながら魔界をさまようのもオツなものだ。

寿司屋を中心に和食系の店をアレコレ覗いてきたなかで、印象深かったのが、とある路地を入っていった雑居ビル2階にある寿司屋でのこと。店構えと控えめな看板に惹かれて、常連で混雑しそうな時間を避けようと早い時間を狙って、のれんをくぐってみた。店内の感じもイメージ通り。一歩踏みいると人あたりの良さそうな大将と顔があった。ところが意外な展開。

「ウチはどなたかのご紹介でないと・・・」。
いわゆる“一見さんお断り”だという。ただ、その物言いが、実に丁寧で感じよく、私も妙に納得してしまった。丁寧といっても、慇懃無礼な感じだったら、気まずさついでに腹を立てたかも知れないが、なぜかその時は不快な感じがしなかった。

誤解のないように言えば、その日の私は、身なりが悪かったわけでなく、もちろん、間違えて高級店に迷い込んでしまった若者という年齢でもない。あえて言えば、“しっかり高いお勘定を請求しても良さそうな気配の客”だったはず。そんなことお構いなしに仲間に入れてもらえなかった私の感想は「神楽坂おそるべし!」。

もちろん、これは特異なケースだ。普通は、パっと見、敷居が高そうな店でも、居心地のいい店が多い。名店と呼べるレベルにある「よね山」という寿司屋もそのひとつ。

ビルの奥まった場所に入口があり、店の様子が外から見えない。それだけで構えてしまうが、入ってしまえば、ごく普通の空間。私が何度か行った時は、少し乱雑気味に感じたぐらいで、妙に凛とし過ぎていない分、居心地は悪くない。

基本的に食べ物はおまかせ。本来、おまかせというスタイルが嫌いな私だが、「肴中心で」もしくは「握り中心で」程度のリクエストをしておけば、こちらの様子に合わせて満足させてくれる。

お勘定は銀座並み。それに見合った内容なので問題なし。

ある料理屋さんで教わった不思議なクラブの話を書いておく。銀座じゃあるまいし、若者相手の大衆キャバクラかと心配して行ってみたクラブだ。

路地の外れ、ほとんど住宅街にあったその店は、古い町家風の一軒家にあった。

外構えとうって変わって、店内は妙に重厚なヨーロッパ風の造作。店内の照明は極限まで絞られ、派手さの代わりに重さばかり感じる。結構お金もかかっていそうな感じで、40歳程度のママさんと若い女性が5名ほど働いていた。

神楽坂の路地と同じ特有の空気感が店にも漂う。妖艶より妖気という表現がまさに当てはまる。

雰囲気に呑まれたのか、女性陣と怪談話をしていたときの事。「あの辺に何か感じる」とママさんが一角を指さす。みんなで目を向けた瞬間、その周辺の照明が3つほど、一斉にバチッという音ともに切れた。

それからあの店には行かなくなった。もう数年前のこと。あまり賑わっていたのを見たことがなかったから、いまだに営業しているかは不明だ。

今になって思うと、訪ねるときはいつも酩酊気味だった。ひょっとすると、あのお店自体が魔界の幻だったのかもしれない。

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