2008年5月15日木曜日

年収なんてアテにならない

ちっとも美人でもないのに美人女医とかの肩書きでテレビに出ている西川史子というイロモノがいる。オトコを選ぶ基準として年収4千万円にこだわっているそうだ。本音だかなんだか知らないが、単に下品な話だ。要は富裕層しか相手にしませんという意味だろう。

何日か前に富裕層マーケットに関する話を書いた。あらゆる業界が躍起になってビジネスターゲットにしている富裕層とは、そもそも浮遊物体のようにマトが絞れるものではない。

相続リッチとか上場益リッチとか、ある日突然、長者になった人もいれば、代々続く土地持ちや事業承継者など継続的にリッチ層に属している人もいる。キャッシュリッチと資産リッチにも違いはあるし、一概に定義づけられるものではない。

とはいえ、西川ナントカが主張するように、一般的に富裕層が語られる際、キーワードのように使われるのが「年収」という基準だ。

確かにひとつの基準ではあるが、この部分だけでは測れないのが日本の富裕層だろう。

たとえば年収1500万円の中小企業の社長と、年収5千万円の金融マン。年収では一目瞭然の格差があるが、社長さんの会社が安定企業だったとする。金融マンは運用成績などに大きく左右されるインセンティブが稼ぎの中心だとすると、安定感ではがぜん社長さんの方に軍配が上がる。

それだけではない。社長さんには、日本の企業経営者の一種の特徴とも言える「会社の財布」という別個のベネフィットがある。

社長車のメルセデスをはじめ、週末のゴルフも法人会員権が複数あって、住まいも役員社宅というケースも珍しくない。ついでにいえば、軽井沢にも会社の保養所名目で別荘があったりする。

税務上、一連の会社名義資産が、あくまで社長個人の私的目的だけに使われていれば、給与認定という問題が生じるが、現実には、業務利用も多いだろうし、よほど極端な事例でなければ、実務の現場で問題になることは少ない。

一方の金融マン。確かに充分リッチではあるが、社長さんと同レベルの資産を個人で獲得するには、相当な苦労がともなう。

海外出張だってサラリーマンである以上、ファーストクラスに乗れるわけでもなく、交際費だって社長さんのようにはいかない。

結果、本当の可処分所得という視点で考えるとどっちが有利かどうかは簡単に判断できない。安定感も考慮すると年収1500万円の方が相当にリッチな人という結論に達する。

年収がすべての基準という考え方は現実社会では、かくも脆い。ついでにいえば、さっきの社長さんのようなケースでは、所得税の累進税率を嫌って、あえて年収自体を低く抑える人も珍しくない。おまけに、奥さんを社長に準じる報酬の専務に就けたりすれば、本当の可処分所得はグンと上昇する。

“よく分からないけどお金持ち”という階層が世の中に相当存在するが、その多くがこうした仕組みに成り立っている。

富裕層をターゲットにした商売を考える人のうち、こうした実情を正確に理解している人が意外に少ないことに驚かされる。

けた違いのリッチマンは別にして、結局は、表面的な年収より、一定レベル以上の企業における法人資金の決裁権者こそがベーシックな富裕層といえる。

一定の社歴がある一定規模以上の会社の同族経営者。こうした階層が、いわば落着きのある富裕層になるわけだが、こうした階層だけにターゲットを絞ったメディアが意外に見あたらない。

『オーナーズライフ』はフリーペーパーという気軽な形態をとっているものの、上記したような階層が本当に求めているテーマに的を絞っているため根強いファンは多い。

会社経費とポケットマネー、いわば2つの財布の使い分けに関する情報や、事業承継という経営者最大の関心事の分析などお堅いテーマではあるが、このあたりに支持が多い。

何千万円もする船旅や何百万円もする時計の話など上質レジャー専門の話題は富裕層に刺さるテーマではあるのだろう。ただ、そんな話ばかりじゃ間抜けだ。経営者視線での税務・財務戦略は欠かせないテーマだ。

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