2008年3月5日水曜日

網走で珍味三昧

足の親指が痛くならないで済んでいるのは、ひとえに丈夫な身体に産んでくれた親のおかげだ。今回の網走でも珍味をどっさり堪能した。

魚卵系に代表される珍味好きな私は、健康診断で一番気にするのが尿酸値だ。半年ごとに標準値の範囲内に収まったり、9.0を超える痛風危険水域に入ったりを繰り返す。

結構セルフコントロールをしているつもりだ。今回の旅行前も、あん肝やら白子、レバ刺し、カニ味噌等々を1週間ほど控えた。
いつも北海道に行く前はこうした涙ぐましい禁欲をする。

網走に着いた日、夜の9時過ぎに市内に出向く。人気のない淋しげな市内の様子に少し不安になる。

人気がない方がじっくり旨いものを食べられると言い聞かせてお寿司屋さんを訪ねた。
店の名は「むらかみ」。
運良く1回転し終わったのか、お客さんはいない。闘いの環境は整った。

東京からはるばる来たこと、北海道でお寿司屋さんで食べまくるのが趣味だということ、珍味系は北海道から取り寄せるほど好きだということ、つまみも握りも相当な量を食べることを、戦闘開始早々からキチンと大将に伝える。

ウジウジしているより、この方がお寿司屋さんも張り切ってくれると私は信じている。この「むらかみ」、清潔で居心地の良いお店で大将の様子もいい感じだ。

まずはタラバの外子。カニの甲羅の内側に付いている卵巣部分を内子と呼ぶのに対し、お腹に抱いている受精卵を外子と呼ぶ。

プチプチジュワーっと旨味が口に広がる。私の中で北海道が始まった。生ビールを駆け付け2杯飲み干してから刺身を少しずつ切ってもらう。

まずはソイ。あっさりしているようでしっかり味がある。クジラも適度な獣肉のような香りがあって食欲を刺激する。続いてクチグロマス。軽く凍らせてある。このルイベ状のマスが良かった。デロデロと脂がしつこいサーモンとはまるで別もの。味が濃く、適度な酸味が残るような後味が癖になりそうな味。そしてホッケ。塩焼きが定番のホッキも鮮度が良ければ上質な脂ののった刺身として熱燗のピッチをあげてくれる。

函館直送のイカも甘くて納得の味。こちらのお店は、刺身類をワサビではなく山ワサビ(ホースラディッシュのようなもの)で楽しませる。山ワサビといえば、イカ刺しにしか合わないのではと思いこんでいたが、クジラにはバッチリ、白身魚、貝類とも相性が良くてちょっとびっくり。

ここで私の大好きな内子が登場。黒紫色に怪しく光るのはタラバガニかアブラガニの内子。オレンジ色に艶めくのはイバラガニの内子。

私の好みは後者なのだが、この店で食べた黒紫は、今まで食べた黒紫系より塩加減が淡く実になまめかしい味。熱燗が進む。最初は軽く凍った状態、いわゆるルイベ状で出されたのでギョッとしたが、ルイベにすることで、日持ちさせるための塩をじゃんじゃん入れないで本来の味わいを楽しめるらしい。深く納得。さすがアブラガニの特産地・網走を実感する。

続いてメフン。これは鮭の腎臓の塩漬け。こちらも塩がきつすぎず、酒飲み感涙の舌触り。熱燗がますます進む。さすがオホーツク、鮭の特産地。

珍味系の口直し(直す必要はないが・・・)で、ツブ貝とホッキ貝をつまみでもらう。それぞれその場で貝から外して供される。おいしい貝はしみじみ甘い。とくにツブ貝が最高。こりこりっとした食感に独特の甘み。熱燗はどこまでも進む。

その後、ニシンの切り込みという酒肴を頼む。小さめにぶつ切りにしたニシンが麹などで和えてある。ニシンそのものの味が深いため、和え物にしても、塩や麹の風味だけでなく青魚特有の香りが混ざり合って、熱燗はとことん進む。

さすがに酩酊気味で、焼酎の水割りに切り替え、つまみを卒業して握ってもらう。

流氷の下で取れたウニをもらう。

流氷の下にあったら獲れないじゃないかと思ったが、流氷の少ない時期にすき間から捕獲するのだろうと勝手に解釈して味わう。味が凝縮している印象。ひと噛み目よりふた噛み目から濃厚な味がぐわーっと広がる感じ。厳寒期のウニならではの奥深い味だ。満点。

「鮭児と時シラズを食べ比べますか」。すっかり打ち解けてもらった大将の問いかけを拒否する理由はどこを探してもない。

いずれも幻の鮭だ。時シラズはその名の通り、季節外れにごくわずかに獲れる鮭で、白子やスジコがない分、上質な脂がのっているのが特徴。鮭児はロシア・アムール川出身の鮭で、1万本に1本程度の割合でしか獲れない希少性の高い鮭。特別大型というわけではないのに全身に上質な脂が回っており、なめらかな味わいが特徴。

偉そうに書いてはみたが、細かいことは知らない。食べ比べた感想は、さすがに時シラズは大型の鮭特有の脂が濃厚な感じで「オーッと美味しい」、鮭児は、もう少し締まった脂の印象で「じわっと美味しい」。

全然伝えられないボキャブラリーの乏しさが悲しい。

ホタテ、タチ(タラの白子)、ボタン海老も間違いのない味。みんな甘い。「甘旨い」という造語を叫びたくなる。

そのあとでアブラの内子を軍艦巻きで握ってもらい、ハイライトは、先に書いたイバラガニの内子の握り。こちらの内子も塩がきつすぎず、内子特有のネットリ感と上質な生卵の黄身のような味わいが口に広がる。

あえて表現すれば官能的な味、エロティックな味だ。(だって卵巣なんだから・・・)。

その他にもいくつか食べた気がするが、酔っぱらっていたので正確に思い出せない。ひょっとするとここに書いた内容も一部記憶違いがあるかもしれない。でも実に満足な時間だった。絶対に流氷に閉ざされていない時期にも再訪したいと思った。

続きは明日。

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