2008年3月10日月曜日

オールドパー

すっかり定着した焼酎ブームのせいで、いわゆる高級クラブでも芋焼酎が普通に置いてある。いっとき、キープボトルとして魔王あたりの人気焼酎を入れたことがあったが、やっぱり今ではその手の店では洋酒に戻った。

酒場は気分が第一。個人的には、非日常感を味わいたいので、晩酌と同じ酒では気分が出ない。普段あまり洋酒は飲まない方だが、素敵な女性陣がお相手してくれる店では、なんとなく洋酒だ。焼酎は食後酒というより食中酒と思っていることも影響している。

いつも決まって選ぶボトルがオールドパー。
「今更感」もあるが断然オールドパー。きっかけは、今は亡き祖父が愛飲していたから。

祖父はパーじいさん伝説にあやかってこの酒を好んでいた。その昔のイギリスに生きたトーマスパーじいさん。ウソかホントか知らないが、152歳の長寿をまっとうしたとか。おまけに100歳を超えてから、不倫の子をもうけて教会で懺悔したらしい。

おまけに死因は暴飲暴食だったと言うからとてつもない偉人だ。

私はこのパーじいさんにあやかるほど元気がないわけではない。あくまで祖父の面影をたどっているつもり。

ちょっと個性的な香りが病みつきになって、いつもつい呑みすぎる。不思議とクラブ活動以外でオールドパーを呑みたくならないから面白い。条件反射みたいなものだ。

社会人に成り立ての頃、お世話になっている人に銀座の伝説的クラブ「姫」に連れて行かれた。こちらは、お店の名前も伝説も知らなかったので、ただボンヤリ呑んでいたような記憶がある。連れて行ってくれた人にとっては張り合いのない話だったと思う。

帰り際、お店のマッチやらコースターなどの備品をなぜかいっぱい持たされた。お土産にしてはつまらない物を渡されたと思って、帰宅後は無造作に放っておいた。

当時私はまだ実家暮らし。実家の主はその頃70歳ぐらいだった祖父。新入社員である私にとっては会社のオーナー会長でもある。子ども時分から敬語で接していた威厳のある存在だ。

マッチやコースターを目に留めた会長様がギロっとした目で私に言う。
「おまえはこんなところで飲み歩いてるのか」。

こちらは、どんなところかも知らない若造なので、率直にたまたま連れられていった経緯を説明した。

途端に祖父は、柔らくイタズラっぽい表情になって、「姫」について解説してくれた。でも、コースターをちょっと見ただけで、それと見極てたわけだし、解説された内容から察しても、「昭和元禄の頃の祖父と銀座」が想像できた。

オールドパーを呑むとき、そんな思い出が甦って楽しい。

最初に酒で足を取られたのも祖父のイタズラがきっかけだった。

中学生になったばかりの頃だったか、何かのお祝いだかで、家の夕食に結構なご馳走が並んでいた。コーラをがぶ飲みしていた私に祖父は言う。

「こんな料理にコーラじゃ合わないだろう。一杯やってみろ」。魔のささやきだ。

オールドパーを呑んでみたが、さすがにマズい。すると次にコーラにドボドボとオールドパーが投入された。

コークハイの出来上がりだ。甘くて美味しい。子どもでもグイグイ飲んでしまった。

しばらくして、椅子から立ち上がった瞬間に転んだ。完全に千鳥足。酩酊。祖父は言った。
「飲みすぎると足を取られることを覚えておけ」。

実践的な教育だった。オールドパーを呑むと、こんなことも思い出す。

先日、銀座の「S」で、「響21年」がキャンペーン商品になっていたので、オールドパーには悪いけど浮気をした。

クラブ活動以外では、ウイスキーといえば響の17年が好きな私が、それより上等の響に傾くのも仕方ない。実際とても美味しい。

同席していた女性陣もぐいぐい呑む。想像以上に早くボトルは空いてしまった。きっとオールドパーの呪いだ。響のボトル代は浮気の罰金だったのだろう。

すぐに心を入れ替えて「オールドパーの一番安いのちょうだい」と叫んだ。

このボトルはまだまだ空きそうにない。

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