2008年3月7日金曜日

神田 その田 ふぐ

そろそろ季節も終盤なので、ふぐを食べようと神田にある「その田」にお邪魔した。
神田多町にある老舗で、熟成された風情が漂う店だ。

割烹、お座敷天ぷらも用意しているこちらの店には、公務員倫理規定がやかましくなかった頃、お役人とか永田町関係の人と何度か訪ねた。今回久しぶりの訪問は、私ひとりぶらっと(友達がいない人みたいだ)。

実はこのお店、中学・高校の同級生が若旦那として包丁を振るっている。そんな気安さもあって、思い立ったその足でのれんをくぐった。

初めて案内されたカウンター席がなんとも居心地がよい。神田明神の熊手やら提灯がさりげなく飾ってあり、「正統な東京の料理屋」という空気が濃厚に漂う。

港区にあるようなハヤリの鮨屋が競い合っているような和モダンも悪くないが、古典的なしつらいの安心感は捨てがたい。年齢と共にこうした風情にこそ惹かれるようになってきた。

ふぐという食べ物は、なんだかんだ言っても日常食ではない。最近増えてきたファミレスっぽい大衆向けふぐ屋さんは別として、相応のふぐ専門店に行くときは、ちょっとした高揚感がある。

そんな気分の高まりをもう一歩突っ込んで考えてみると、味そのものだけでない部分への期待感がそうさせていることに気づく。

要は、味以外に情緒を求めているのだろう。ふぐを近代的なビルの中でスタイリッシュな雰囲気で食べたいとは思わない。やっぱり「それっぽい情緒」は不可欠だ。

その点、「その田」はオススメ。
神田という立地がいい。お店の周囲にも神田的空気をのれんに漂わす飲食店がチラホラあって渋い。広々とした幹線道路沿いの路面店ではなく、狭い路地にデンと構えるお店の風情がいい。昭和レトロだ。

玄関を入れば、日本旅館のような雰囲気。忙しく立ち回る着物姿の女性や白い衣装の板前さんの姿が垣間見える。うまいものにありつけそうな気配は、開き戸を開けた三和土からでも感じられる。

カウンター席にポツンと座ってまずはビール。前菜の海老しんじょうと小ぶりの焼き魚を肴にグビ呑み。ほどなく、ふぐ刺し登場。

ポン酢の味わいが、やはり専門店ならではのキレの良さ。薬味ひとつとっても大雑把ではない。勝手な想像だが、こんな仕事ぶりが職人の矜持なのだろう。

そして、やっぱりヒレ酒でしょう。

大サービスだったのかもしれないが、やたら大きなヒレで濃厚なヒレ酒を堪能する。香ばしく炙られたヒレが透明だった燗酒をあっという間に色づける。

ヒレ酒を初めて思いついて試してみた昔の誰かの英知に乾杯だ。

そうこうしているうちに、やってきました白子。白子といえば、頻繁に出かける北海道でしょっちゅう真鱈の白子を味わっているが、ふぐの白子はきめ細かな味わいが極上だ。写真は一口かじっちゃった後。

50円ぐらいの淡泊なバニラアイスとハーゲンダッツのリッチミルクぐらいの違いがある。相当な二日酔いでも、ヒレ酒と白子が出てくれば、黙って呑み続けられそうだ。
繊細かつクリーミーかつ後味はスッキリ。そんな感じ。

その後、ふぐのカマの焼きものを食べた。初体験。癖になりそうな逸品。カマの場所によって付いている肉質はさまざまで、見た目は単純だが、口の中では、あっさり味、ジューシー味、コラーゲン味などが競演する。醤油ベースの味付けもまた、ふぐの旨味を消さない程度の加減で抜群。最高でした。

味と情緒、両方堪能して幸福な気分になった。うまいモノとうまい酒がある星に生まれたことを神に感謝して帰路につく。

銀座に寄り道してから帰路についた。

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