今回の旅はウニざんまいだった。ウニの気分じゃなくてもウニを必ず注文していた。こういう感覚が我ながらアホみたいだと思う。
「ウマい魚は東京に在り」。突き詰めるとそれが真実である。流通大革命によって大消費地・東京に売れるものはすべて集まる。
海産物しかり。サンマの刺身が普通に食べられるぐらいだから、ウニだってツブ貝だってホタテだって何でもかんでも新鮮かつ上等な品は東京にやってくる。
若い頃は、旅先で食べるその土地ならではの海産物に興奮したが、いま、あの感覚は味わえない。
私の舌が肥えたというより、流通が原因だろう。とても有難いし、便利だが、旅情は薄くなった。
さてウニである。稚内では、ムラサキウニ、バフンウニそれぞれを楽しませる店が多かった。ウニ刺しを注文してもドカ盛りで出てくるような店はダメである。値が張るくせにチョット盛りで出てくるぐらいが正しい姿だ。
さすがに生モノである。安かろう悪かろうの世界だ。良いウニが安いわけないのだから、それなりに散財は覚悟しなければならない。
評判の良い店、流行っている店であれば、ウニは間違いなくウマい。そんな信念で3日間を過ごしたからウニに関しては外さずに済んだ。
酒のアテとして初体験だったのが「タラの卵の醬油漬け」だ。「車屋源氏」という店の自信作らしい。魚卵系珍味好きな私にとっては天国みたいな一品だった。
この店では稚内名物である「タコしゃぶ」も食べた。ミズダコを凍らせて薄くスライスして、ほんの5秒ほどしゃぶしゃぶして味わう。タコはタコの味だったが特製のタレが甘じょっぱくてウマかった。
珍味といえば、やはり「カニの内子」が北海道の代表選手だろう。私の大好物であるイバラガニの内子はどんどん希少化しているが、紫色のニクいヤツであるタラバの内子は大丈夫みたいだ。稚内の海産物土産店でも普通に瓶詰めが売られていたので妙に嬉しかった。
この画像は「竹ちゃん」という人気の海鮮料理屋で筋子と塩辛と並べてニタニタしていた時のものだ。
それ以外にウニ刺しやホヤの塩辛などをアテに冷酒や焼酎をグビグビ。至福の時間だった。
「ホッケメンチカツ」なるものがメニューにあったので迷わず注文してみた。以前、東京の下町・巣鴨の大衆酒場で出会った「イカメンチ」がやたらとウマかったから、勝手に大興奮して食べてみたのだが、これはイマイチだった。残念である。
その代わりに大満足だったのが「ハッカクの軍艦焼き」である。北海道ではポピュラーなヘンテコ顔の魚だが、今までは塩焼きしか食べたことがなかった。
ネギ味噌を塗って焼き上げる食べ方が北海道では定番らしく、今回初めて体験。脂身のある白身と味噌の相性が抜群だった。これはクセになりそうだ。
魚貝以外では大失敗ラーメンも食べた。宗谷岬でのこと。
思い起こすこと30年前、宗谷岬に初めて行った時、薄ら寒い季節だったので何となく入ってみたラーメン屋でホタテ入りのラーメンに感激した。
で、懐かしき想い出を甦らそうと当時のラーメン屋を探した。
無理である。30年前のことなど細かく覚えておらず、周辺の景色さえも一切記憶にない。
外まで行列が出来るほど繁盛しているラーメン屋があったのだが、列に並ぶのが何より苦手な私は迷わずにガラガラの怪しい食堂に入ってみた。
この時点で負けである。
ホタテラーメン登場。800円である。アサリみたいなサイズのホタテがちょろんと載っている。ビミョーな感じだ。
感激したこと、嬉しかったことの記憶は年月とともに美化される。私の脳裏に浮かんでいたのは30年美化され続けた昔のホタテラーメンのゴージャスな姿である。現実とのギャップにたじろぐ。
今回のラーメンは化学調味料と塩分がやたらと過剰に投入されている物凄く力強い?味だった。完敗である。
やはり夏の稚内では余計なことを考えずにウニを食べているのが一番幸せである。
ということで、帰京する日の朝までウニである。正直、朝からウニの気分ではなく、今回一度も食べていなかったホッケを食べようと「うろこ亭」なる水産会社直営の店に出かけた。
うまそうなシマホッケがあるらしい。ゴージャスな朝御飯が楽しめそうだ。しかし、メニューをじっくり眺めていたら、どうにもウニが気になって仕方がない。
「昨日もおとといもウニをしっかり食べたじゃないか。いい加減にしなさい。尿酸値のことも考えるべきだ」。
「せっかくの旅だよ。帰る前にウニをガッツリ食え。この前の検査で尿酸値は標準だったじゃん。迷ったら食うってのがテメエの生き様だろ」。
私の頭の中で善人と悪人の格闘が始まった。でも秒殺で善人敗北。悪貨は良貨を駆逐するという格言通りである。
ホッケは単品にしてもらい、ウニ丼をオーダーする。ファンタスティックな朝食に涙が出そうになった。
思いつきで出かけた3日間。なかなか充実した時間だった。でも、ウニはしばらく食べないことにする。
2 件のコメント:
富豪記者殿
確かに流通と通信の革命的な進化で旅情が薄くなったのは否めませんが、最後の豪快な組み合わせの朝ごはんは正に旅の味ですね。そして吸い込まれそうな道北の空。やっぱり首都圏にはない世界に旅情を感じます。
道草人生サマ
コメントありがとうございます!
確かに北海道は「空」が魅力的ですね。
北海道でも都市化していない場所に惹かれます。
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