昔から漫画やアニメの世界に没頭できないタチだ。世代的にはルパン三世やガンダムや宇宙戦艦ヤマトに熱中してもおかしくなかったのだが、どれもまったく興味がなかった。
子供時代に熱中したヒーローシリーズも仮面ライダーやキカイダー、はたまたロボコンみたいな実写版ばかりでアニメ系に熱中したことがない。私自身に絵心のカケラがまったくないせいでヒネくれてしまったのだろうか。
さて、そんな私だが、子供が幼い頃に付き合いで観たアニメ「千と千尋の神隠し」の中のあるシーンだけは妙に印象に残っている。そのシーンは今もしょっちゅう脳裏をよぎる。主人公の女の子の両親が突然豚になっちゃうシーンである。
確か、どこかに置いてあった食べ物を勝手に食べあさっているうちに豚に変身してしまったシーンだ。食い意地のはった私としては妙に怖い描写に思えた。
「勝手にヨソのメシを食べちゃうと豚になる」。映画公開時にすでに立派な大人だった私だが、あのシーンのせいで、人様の食事を断りもなく食べてはいけないと初めて!?知った次第である。バカですいません。
よく覚えていないのだが、あのシーンは何となく不思議だった。子供がいるいっぱしのオトナが夫婦そろって人様の食卓に置いてある食事を勝手にガツガツ食べちゃう。普通そんなヤツはいないだろう。ヤクザもビックリの非道ぶりだ。
まあ、そんな非道ぶりだから罰として豚になってしまったのだろう。結局、意味がよく分からないシーンなのだが、私の頭の中には「意地汚く食う」イコール「豚になっちゃう」みたいな図式が埋め込まれてしまった。私の脳みそは実に単純だ。
「食べてすぐ寝ると牛になる」。そんな迷信みたいな話を幼い頃によく聞かされた。もちろん、信じるほどバカではなかったが、深層心理のどこかに「牛になっちゃうオレ」という映像が刻まれている。そんなスットコドッコイは私だけだろうか…。
そのせいもあって「豚になっちゃうオレ」という恐怖心もアニメ映画のせいで私の心の片隅にあるみたいだ。「豚イコールデブ」みたいなイメージも相まって、ドカ食いや意地汚い食べ方をすると豚に姿を変えた自分を想像してしまう。
そんなことを書くと自分が異常者みたいだ。まあいいか。
おバカな私のこんな発想には少なからず豚肉が大好きであることが影響している。いわば、豚に対する申しわけなさである。
ここ数年、とにかく豚肉愛が強い。我が家の冷蔵庫、冷凍庫には豚肉しか無いといっても過言ではない。ふるさと納税で取り寄せる食品もコメの他には豚肉ばかりである。
極端な言い方をすれば「牛肉ほど重くない、鶏肉ほど軽くない」という点にハマり続けているのだろう。自炊する際も大半が豚肉をアレコレしている。
上の画像は赤坂のハモニ食堂で食べたサムギョプサル。この店はわがオヤジバンドのスタジオ練習の後に何度か利用した。4~5人ぐらいでアレコレ注文するといろんな味が楽しめるのでオススメである。
ウマい豚肉は何より食感が好ましい。当たり前だが牛や鶏とも違う歯ごたえにウットリする。脂身の甘みもまた素敵である。牛の脂よりも断然甘さと旨味が強いと感じる。
そんな豚ファンの私が見逃していた豚肉料理の専門店がある。マロリーポークステーキというチェーン店だ。だいぶ前からその存在は知っていたのだが、未踏の地だった。
料理のサイズ感をウリにしている店にウマい店はない、そんな固定観念に縛られていたせいで何となく敬遠していたのだが、ひょんなことで初体験してきた。単純にウマかった。やはり食わず嫌いは損をする。
とある日の昼下がり、ちょっとした事情で朝飯抜きだったので空腹バリバリの状態で最近オープンした日本橋店に入店してみた。画像はランチメニューだから夜は値段が変わるのかもしれないが、肉の量からすれば値段も手頃である。
「安いステーキは美味しくない」。これまた固定観念のせいでちょっと心配になったのだが、とにかく空腹だったので450グラムの豚の塊を注文した。
付け合わせのタレというかソースが2種類用意されていた。どちらも肉との相性がバッチリだった。別注でトリュフバターも追加したのだが、これまた味変効果を発揮して悪くなかった。
肝心のポークステーキそのものについてだが、しっととり柔らかく焼き上げられていた。パサついた部分はまったく無かった。ヘタな牛のステーキを食べるなら個人的には断然こっちが良いと感じた。空腹男子なら450グラムはペロリだろう。
極度の空腹だったから何を食べても美味しく感じたのかもしれないが、想像していた味より確実に上だった。すぐにまた食べたい気分である。
夜はツマミになる小皿メニューがいくつも用意されているようなので近いうちに飲み屋さん的にも活用しようと思う。
ここ数か月、節制も兼ねてモツ焼き屋に行って怪しい部位の豚肉をチマチマ食べる機会が多い。炭水化物は避けて梅きゅうやモヤシ炒めなども頼んでヘルシーな気分になっている。
それはそれで悪くないが、ポークステーキ屋でも似たような過ごし方はできそうだ。生ハムやピクルスをツマミにハイボールでも飲みながらシメに適量の豚の塊を食らう。なかなか魅力的だ。
ホッピーにモツ焼き、というパターンよりちょっとシャレている。でも豚は豚だからきっと総摂取カロリーは似たようなものだろう。
でもデカいサイズを頼みたくなる私の悪いクセは要注意だ。調子に乗っていると「千と千尋…」みたいに気づけば豚になってブヒブヒ言ってるかもしれない。怖い怖い。