2010年1月15日金曜日

リクルート

久しぶりに読書で興奮しまくった。「興奮しまくる」といってもエロ本ではない。ルポというか自伝というか、ノンフィクションの傑作だ。

その名も「リクルート事件・江副浩正の真実」(中央公論新社)。筆者は江副氏本人。あくまで江副氏サイドの一方的な視点で書かれたものだが、昭和史の一級資料と言っても過言ではない。

昨年10月発行なので新刊ではないが、大きい本屋さんなら今でも平積みされている所もある。

もう20年以上前の出来事だが、40代以上の日本人であれば誰もが当時の喧噪をリアルに記憶している。日本中を騒然とさせたリクルート事件の主役がリクルート創業者の江副浩正氏。

執行猶予付きの、いわば「白に近いグレー」という印象の有罪判決を受けた江副被告は、執行猶予が晴れて開けたタイミングで執筆を加速させたのだろう。その内容は表現にこそ抑制が効いているものの迫力満点だ。

メディアの暴走、検察の実態、司法制度の歪み等々がリアルなエピソードで語られている。筆者の立場になって読み進んでいたら、気の弱い私は気分が悪くなったり胃が痛くなった。

いま思えば歴史的な国策捜査だったのだが、あの頃の熱気のなかで、私自身メディアの報道を鵜呑みにして事件の価値判断とか善悪の印象を決めていたような気がする。今になってその事実が恐ろしく感じる。

情緒的かつ世論操作だけを主眼に“ストーリー”を展開したマスコミ。いつしかそれが世論となり、世論に応じないことでの権威失墜に神経をとがらせた検察。そして、立件されたら99%が有罪になる司法の実態。なんとも絶望的な気持ちになる。

有罪確定前の被告段階での人権無視の数々には背筋が寒くなる思いだ。刑務所よりキツいと言われる拘置所での長期拘留。その生々しい体験談は、冤罪が無くならない現実を象徴しているし、人間の普通の神経がいとも簡単に壊されてしまう恐ろしさを伝えている。

ちなみにこの本を読んだだけで、江副氏の卓越したバイタリティーに触れた気がした。なにしろ裁判だけでもおよそ20年。事件のきっかけとなった未公開株譲渡という行為から四半世紀ほども経っているにもかかわらず抜群の記憶力には驚かされる。

日記などの資料があったとしても前後の事実関係や印象、心の動きなどがこと細かく描写されている。並大抵の記憶力、分析力で無いことは一目瞭然。ただただ凄い。

記憶力以前に、これだけの本を書きあげようとする意欲、意思、情熱、姿勢、冷静さ。それだけで超絶的だろう。

事件への興味、江副氏への関心がまったく無い人にもぜひオススメする。

事件自体は風化して、江副氏も現実には過去の人になってしまったが、この本のベースでもある「日本社会の因習」は風化とは無縁だ。

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