2011年8月1日月曜日

螢か蝉か

虫が苦手な私だが、ホタルとセミには心惹かれる。もちろん、触ったりするのはイヤだ。あくまで、存在として、イメージとしてのホタルとセミが好きだという意味。

ホタルもセミも、日本人が好む「はかなさ」の概念を象徴する代名詞だ。虫業界における桜みたいなもの?だ。

ホタルの放つ恋の灯り、セミが命をかける恋の歌。いずれも限られた時間の中で精一杯に命を輝かせる。

何年か前までは毎年ホタルを見に名所といわれる場所をいくつか訪ね歩いた。

闇の中、水辺のせせらぎの音と、優しく飛び交う黄緑色の光。ホタルの生息地ならではの水辺の香りも不思議な癒しの雰囲気を醸し出す。

今年も見に行く機会を逃した。実に残念。浴衣姿の愛らしい女性を連れ立って出かけるのは来年の楽しみにとっておこう。

さてさて、都心でもセミが賑やかになってきた。ホタルが静ならセミは動。はかなさのシンボルでも随分とイメージは違う。

「鳴く蝉よりも鳴かぬ螢が身を焦がす」という諺もある。ウダウダ言う人よりも沈思黙考タイプの人のほうが深く愛情に身をやつすという意味だ。

本当だろうか。愛情を感じたら一生懸命伝えたほうがいいように思うけど、いかがだろう。黙ってたら屁の突っ張りみたいなモノだ。

まあいいか。どっちがどうあれ、ホタルもセミも恋を表わすシンボル的な存在には違いない。

土の中で7年暮らし、地上に出ても7日で命を終える姿がセミのイメージを決定付けている。

雌伏の時を経て、最後の数日、全身全霊で愛を求めて鳴き続けるわけだから、それはそれはロマンチックではある。

少年の頃、いたずらついでにセミに爆竹を抱えて飛ばした残酷極まりない自分をつくづく反省したくなる。

話を戻す。

考えてみれば、命が尽きる寸前になって一心不乱に愛の歌を叫ぶなんて芸当は、「はかなさ」というより「勇ましさ」かもしれない。

自分に置き換えて考えてみた。人生の終わりが見えてきた頃に、そこまで必死になれるだろうか。むしろ、そんな情熱を忘れずに晩年を迎えられたら、実に素敵な老後ではないだろうか。

たくましいセミを見習わないといけない。

まだまだ最晩年ではない私だ。最晩年になったら、そんなパワーは残っていないだろうから、今のうちにセミを見習ったほうが良さそうだ。

粉骨砕身、一日中、やかましく愛の歌でも叫んでみようか。

さてさて、私にとってセミの鳴き声といえば、「カナカナカナ」と切なく響くヒグラシが一番印象的。

小学生、中学生の頃、夏休みも後半になると、夕暮れとともに聞こえるヒグラシのモノ哀しい声に妙に焦りを覚えた。

「夏の終わり、宿題に手を付けていない自分」。そんなシチュエーションにはヒグラシの鳴き声が染みた。ホントに切なくなった。

ミンミンゼミやツクツクボウシの鳴き声は、野球だ、プールだとガンガン遊んでいた時のBGMだ。太陽が真上にある時間帯に聞こえてくるイメージ。これはこれで「楽しい夏」を盛り上げてくれる音色だ。

ヒグラシは、楽しいと言うより、郷愁を誘うとでも言おうか、どことなくしっぽりとした気分にしてくれる。

すいませんが、ここからアホな妄想が始まります。。。



入道雲が少しだけおとなしくなった晩夏の夕暮れ。

さっきまでの通り雨が嘘のように、彼方にはうっすらと淡い色合いの虹。

夕立を浴びた木々の緑が、みずみずしくも気だるい香りを放つ。

人気の無い公園のベンチ。すぐ横で無人のブランコが時折風に揺れる。

藍色の浴衣姿のその人は、私に向けてゆるりと団扇の風を送る。

ふと彼女の髪の香りが風に乗って私の鼻をくすぐる。

どこかから聞こえてくる風鈴の涼やかな音色。

遠くに聞こえる豆腐屋の笛の響きが混ざり合う。

二人の間に流れていた静かな、そして決して退屈じゃない沈黙が終わる。

「かき氷でも食いに行くか」。物憂げにつぶやく私。

「あーさんとならお酒のほうが嬉しおす」。潤んだ瞳が私を優しく見つめる。

そんな二人に嫉妬でもしたかのようにヒグラシが鳴く。

「カナカナカナ~・・・」




ウヒョヒョのヒョだ。考えただけでクラクラする。いいなあ、そういうシチュエーション。どうやったら実現できるだろうか。

というか、この妄想、かなりバカみたいだ。

母校出身者限定のSNSがあるのだが、そこでしょっちゅう、妄想的な日記を書いている旧友がいる。幼稚園から一緒だった男で赤坂で中華料理店を経営している。

彼は妄想ではなく、実際にあった話だと言い張るのだが、どうにも怪しい。偶然出会った美女とどうしたこうしたみたいな話が頻繁に出てくる。絶対に妄想だと思う。

でも、ここで妄想を書いてみて分かった。

妄想は楽しい。妄想のなかで生きていければどんなに幸せだろう。
旧友ももきっと妄想の中で幸福なのだろう。

私の妄想に登場する私は、常にニガみばしったいい男で、クールで無口。どこか陰を感じさせ、近寄りがたい気配もある。渋い男だ。高倉健と田村正和がミックスされたような感じ。

誰だそれ!。実物の私とはまったく違う。バカみたいだからこの辺でやめよう。

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