スマホやパソコンをいじった後には寝つきが悪くなるそうだ。電気の光をずっと見ているから脳が休まらないらしい。
というわけで、寝る前には活字が一番である。ベッドに入って本を開く時は何となくワクワクする。1日の終わりに脳を別の世界に解放するような気分になる。
抜群に面白い本だと脳が活性化しちゃって眠気がちっともやってこない。適度に面白いぐらいがちょうどいい。
先週、久しぶりに抜群に面白い本を読んだ。長編だったので毎晩の晩酌のように少しずつ読もうと思っていたのだが、面白すぎて一晩で一気に読んでしまった。
脚本家として有名な内館牧子さんの「終わった人」という小説がそれ。面白いという表現より「身につまされる」「納得する」といった感覚だろうか。
主人公は60代前半の男。エリート銀行マンだったが、不運の出向転籍を経て定年退職した後の物語だ。
これから読む人のためにストーリーは詳しく書かないが、中高年の心の動き、閉塞感、飢餓感、あきらめ、抵抗心なんかがモノの見事に描写されていた。
軽妙なタッチで書かれているので重苦しい作品ではないのだが、中高年男にとっては細かな心理描写がとことん身につまされる。
「終わった人」というタイトル自体が深い。今の世の中、60代でも若々しく活躍している人は多い。「館ひろし」なんか66歳である。
とはいえ、会社勤めを唯一の世界観とするサラリーマン社会では「定年イコール終わった人」である。
「館ひろし」より若いのに、人として「終わった」というレッテルを貼られたら、そりゃあ様々な問題も起きる。
この本では、定年退職して手持ちぶさたになった主人公が、世間に浸透している画一的で決めつけたかのようなジジババ扱いに強い違和感を持っていることが随所に描かれる。
若者が理由もなく世の中に反抗する姿勢と似ているかもしれない。尾崎豊の「僕が僕であるために」の中高年版みたいな感じである。
50歳を過ぎたばかりの私でも主人公の心の動きが痛いほど分かった。大いに共感する一方、時に痛々しく感じる部分もあり、読み進むうちにハラハラしたり息苦しくなったり、まったく飽きずに読み終えた。
中年以上の人にとってはバイブルになってもおかしくない内容だと思う。
さきほども少し書いたが、これからの高齢化社会は「中高年の反抗」が大きなムーブメントになるような気がする。
昭和と今とを比べれば年齢に対する感覚は随分と変わってきた。若々しくなったのか幼稚化したのかは分からないが、どっちにしても大きく変わった。
昭和の頃は66歳で「館ひろし」みたいな人は世の中に存在していなかった。
ちなみに私が「館ひろし」ばかり引き合いに出すのは彼に恨み?があるからである。
http://fugoh-kisya.blogspot.jp/2009/06/blog-post_03.html
今も時々「館ひろし」を銀座の酒場で見かけるが相変わらずカッチョいい。ダンディーオーラを振りまいている。あの年齢であの雰囲気をキープするのもきっと大変だと思う。
話がそれてしまった。
確かに昭和の頃は60歳も過ぎれば「ご隠居さん」みたいなイメージがあった。ギラギラした感じなどとはまったく無縁で、まさに「終わった人」だと思われていた。
サザエさんの父親である波平の年齢設定をご存じだろうか。54歳である。「柳沢慎吾」と同じ年である。「佐藤浩市」より年下である。
妻フネにいたっては48歳だ。「鈴木京香」と同じ年である。「小泉今日子」より年下である。
そのぐらい年齢の感覚は時代と共に変化している。にもかかわらず今も社会の空気は60歳を過ぎた程度で男達を「終わった人」として扱う。
そして、終わったつもりはないのに終了宣告された男達は、やれカルチャースクールに通え、陶芸を始めろ、朝からジムに行け、ボランティアに励め等々、紋切り型の生き方こそ年寄りの生き甲斐みたいな風潮にさらされる。
もちろん、そういう活動に邁進したい人はどんどん励めば良いが、そうじゃない人も相当いるはずだ。
高齢化が益々進むことで「年寄りは誰もが無条件にこうあるべき」みたいな押しつけを嫌う人も増加するだろう。
かといって、どうしていいか分からないジレンマに陥って悶々とする年寄りもワンサカ増えるような気がする。
ヘンテコな想像だが、行き着く先は「不良老人」だろう。世間への反発がツッパリやヤンキーやらの不良少年を生むのと同じ構図である。
その昔、イカれた格好でブイブイ騒いでいた暴走族は今の60代ぐらいの世代が10代の頃に生み出したものだ。
リーゼントは毛量の関係で無理でも、ソリ込みは自然に入っているし、ボンタンズボンに身をまとい、昔のツッパリ達が愛用した変なサングラスをかけて「ナメんなよ!」と大真面目に叫ぶジイサンが街を闊歩する日も近いような気がする。
リーダーはもちろん「館ひろし」で決まりだ。
2 件のコメント:
相変わらずおもしろい!
ありがとうございます!
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