人生で一番熱中した事だったが近年はモチベーションが上がらない状態が続いていた。
二十歳になるちょっと前に突然思い立って講習を受け、海で泳いだことなどほとんど無いくせにライセンスを取った。
その後も段階的に講習を受け続け、一時はそっち方面で食っていこうなどと真面目に考えた時もあった。
大学生時代は潜ってばかりだった。沖縄に1ヶ月半も滞在して髪の毛が茶色くなったこともあった。
社会人になってもまとまった休みはすべて潜水旅行に明け暮れた。潜ることを楽しむより水中写真にハマっていたので、せっせと我流で撮影し続けていた。
国内はもとより、パラオやポナペ(ポンペイ)、トラック(チューク)などのミクロネシアやモルディブに何度も出かけた。
東南アジアはフィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアのあちこちやパプアニューギニアまで遠征した。遠いところではエジプト・紅海あたりまでせっせと出かけた。
20代の終わりからの数年間はカリブ海に没頭した。ケイマン諸島やメキシコ側のコスメル、中米側のホンジュラスや南米に近いボネール、キュラソーまで足を伸ばした。
ただただ若かったのだと思う。安いチケット専門だったから、普通なら1度や2度ぐらいの乗継ぎで行ける場所に4~5回乗り継いでヘロヘロになった。それはそれで楽しい思い出だ。
今だったらお金をもらってもあんな強行日程で旅をするのはイヤだ。
いつだったか、カリブに向かうのにロスからオーランドにムダに移動したことがあった。オーランドからマイアミに行くための乗継ぎである。
ロスからオーランドに向かう飛行機はたまたまディズニースペシャル?みたいな便で、乗客はディズニーワールドに出かける人ばかり。搭乗口でなぜだか皆がミッキーのヘンテコな帽子をかぶらされた。私も黙ってかぶった。
機内でも皆さんディズニーモード。オーランドに着陸した途端、乗客がミッキーマウスの歌を合唱している。マイアミに乗り継ぐだけの怪しい東洋人である私はミッキー帽をかぶったまま乗継ぎゲートをとぼとぼ探すシュールな展開になった。
私のディズニー嫌いはあの時のトラウマが原因かもしれない。
潜水へのモチベーションが低下した大きな理由は水中写真の劇的な変化だ。デジカメに移行して、それまでの苦労は何だったんだと思うほどすべてが変わった。
便利さも急激に進むと退屈さにつながる。フィルム時代には最大で36枚しか撮影できないから必然的に一枚一枚に気合いを入れてシャッターを押した。
デジカメになれば当然、無制限で撮れてしまう。便利さにいちいちビックリしながら、知らず知らずに雑な撮影をするようになった。その結果なんとなく面白くなくなってしまった。
おまけにフィルム時代と違って撮ったその場で失敗か成功かが確認できてしまう。いつの間にか水中写真への執着心とか集中力、ドキドキする気分が昔よりも薄らいでしまったわけだ。
そう書くと結構な偏屈者みたいだが、遊びや趣味の世界ってそういうものだと思う。
自分なりに築いてきた感覚や確立してきたノウハウがまるで過去の遺物のように無意味になってしまったら徐々に情熱がしぼんでいく。
情熱がしぼんじゃう。こればかりは仕方がない。人間何をするにも情熱が有るか無いかで決まる。
仕事はもちろん、恋愛だって、はたまた家庭生活だって情熱がなくなれば途端に色あせる。惰性で続けることは出来るが、趣味の世界は惰性では続かない。
年齢も原因かもしれないが、だとしたら残念だ。なんだか負けたような気分になる。とはいえ、海に潜る行為は大げさに言えば命がけだから無理に続けても危なっかしい。
30年以上続けてきたから海での死亡事故の話はいっぱい耳にした。知り合いが絡んでいた潜水事故もあった。
私自身、それなりに危ない思いもした。今の歳で似たような状況になった時に無事でいられるか自信が無いのも確かだ。
引退しちゃえば少なくとも海で死ぬリスクからは逃れられる。そう考えれば思い切って終わらせちゃうのが賢明かもしれない。まさしく潮時だ。
そんなことを書きながら引退試合ならぬ引退潜水の計画が頭をよぎる。どこかホゲホゲした南の島に行って、水中カメラなど持たずにぼんやりとケジメの水中散歩をしてみたい。
でも、そんな未練がましいことをしたら、どっかのプロレスラーやボクサーみたいに平気で引退を撤回しそうだからビミョーである。
0 件のコメント:
コメントを投稿