数ある食材の中でもちょっと不当な扱いを受けているのがエビだと思う。同じ甲殻類でもカニのほうが珍重されている。エビ業界で偉そうな顔が出来るのは伊勢エビぐらいで、その他は常に脇役みたいな地位に甘んじている。
全ての元凶は回転寿司などで出てくるペラッペラに薄くて小ぶりな“謎エビ”のせいだろう。味も素っ気もないあのインチキみたいなエビが出回ったことでイメージが悪化したような気がする。
もともとエビは「長いヒゲと曲がった腰」が長寿を表すものとされ縁起の良い食べ物の王者として君臨していた。おまけに目が飛び出している姿から「メデタイ」象徴とも目されていた。
ウマいエビは本当にウマい。当たり前の表現だがそれに尽きる。マズいエビが溢れかえっているせいでそんな事実がないがしろにされている。実に残念だ。
江戸前寿司の花形は昔からエビである。にもかかわらず今ではボタンエビや甘エビなどの生モノ系に人気を奪われ茹でエビはどこか肩身の狭そうな気配を漂わせている。
一定水準以上の真っ当な江戸前寿司の店で食べるべきは茹でた車海老であり、穴子、小肌とともに“三巨頭”だと私は確信している。
寿司以外でもエビの影はやや薄い。エビフライという国民誰もが好きなはずの一品もナゼか“ついで”みたいに扱われている。トンカツ専門店はあってもエビフライ専門店が見当たらないのがその証だ。
もっとも私自身、あえてエビフライを主目的に外食先を選ぶことはほぼ無い。洋食屋さんやトンカツ屋さんでついでに頼むことが多い。でもウマいエビフライに当たるとこっちを主役にすべきだったと思う。
この画像は自宅の近所のトンカツ屋さんで注文したエビフライである。非常にウマかった。衣と身のバランス、揚げ加減、そしてボリュームもバッチリだった。主役であるトンカツを凌駕するほど魅力的だった。
ただ、タルタルソースが用意されていなかったことが残念だった。地団駄踏んで悔しがりたい気分になった。洋食屋さんじゃないから仕方がないが、やはりエビフライにはタルタルソースは欠かせない。タルタル人である私にとってはそこは譲れない一線だ。
こちらは銀座というかほぼ新橋にある小料理屋「かとう」で出てきたエビフライ。居酒屋的な気軽な店ではサワー系の飲み物に合わせたくなるのが揚げ物だ。たいていは鶏の唐揚げや軟骨やタコの唐揚げぐらいしか用意されていない。エビフライがある店はそれだけで惚れたくなる。
でも、居酒屋系の店の多くがタルタルソースまでは用意していない。レモンを絞ってソースをかけて食べることになるが、いつもタルタル恋しさで悶々とする。小袋に入れた「マイタルタル」を日頃から持ち歩こうかと真剣に考えてしまう。
こちらは銀座の洋食店「スイス」のエビフライ。なんだかんだ言ってタルタルソースである。ヤツの存在がエビフライの美味しさを5倍にも10倍にもしてくれる。老舗洋食店の場合、タルタルソースもこだわって作っているから嬉しい。
レモンを絞るだけの一口、ソースだけの一口、タルタルだけの一口と何段階かに分けてエビフライを味わう時間は幸せの極地である。最終的にはレモン、ソース、タルタルソースをすべてベットリつけて食べる。もはやエビの風味は感じられないのだが、そんな味も紛れもなくエビフライの味である。
同行者がいる場合は洋食屋さんで必ずエビフライを注文する。一人メシだとシチューにオムライス、コキールにハヤシライスなどを注文してしまいエビフライを逃しがちだ。揚げ物を頼むにしても“べシャメル星人”である私としてはクリームコロッケを優先してしまう。
誰かがいれば普段よりたくさん注文できるのでエビフライの出番がやって来る。相手が若い女子であればテキトーに肉類をいっぱい食わせる作戦を立てる。若い女子は肉に気を取られてくれるから麗しのエビフライの大半は私のモノになる。
この画像は日本橋「たいめいけん」の2階席のエビフライである。2階席だとそれなりに値は張るがいい感じのサイズのエビがたくさん盛られてくる。たいていの場合、エビフライは1~2本味わってオシマイというパターンだが、ここならドッサリ食べられる。エビフライ気分の時には最高だ。
ここまで書いてきて改めて実感したのだが、エビフライを大絶賛しているくせに、結局は私自身がヤツを二番手、三番手の食べ物として扱っている現実だ。それこそがエビフライを取り巻く不幸な現実である。
主役にはならないがバイプレーヤーとしては超一流。そういう意味ではエビフライは柄本明みたいである。
以上です。
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