2009年4月27日月曜日

孫のためなら 老老相続

老老介護という言葉がある。実にキツい響きだ。介護されるほうはもちろん、介護するほうも老人というパターンを指す。高齢化が進めば、当たり前のように90歳の親を70歳の子供が介護するような事態が生じる。

同じような言葉の意味で「老老相続」という現象が昨今の世相だ。一般的に相続といえば、働き盛りの中年ぐらいの頃に親が亡くなって遺産の処分を考えるスタイルを想像する。

映画やテレビドラマで描かれる相続の葛藤といえば、そういう世代にスポットをあてるのが常道だ。

ところが介護と同じで、いまや超高齢者が高齢者に財産を残すことが珍しくない。ここで問題になるのが、各種の景気対策の考え方だ。

貯め込んだ親の資産を子供世代に承継させて消費を活性化させる。こんなイメージを元にしている政策は少なくない。相続税制、贈与税制にしても、最近はこの部分を刺激して景気浮揚につなげようという狙いが垣間見える。

超高齢者から高齢者への相続だと、遺産を受け継ぐ世代もリタイア世代であり、消費動向は活発ではない。住宅も持っている、教育の使命も終わったというパターンだ。

資産移転といっても、消費刺激にはつながらなければそれを前提とした政策は機能しない。この部分が見落とされている。

カギを握るのは、孫への資産移転だろう。一世代飛ばすことで、旺盛な消費性向を持つ世代に資金を回すことができるわけだ。

ところが、孫への資産移転を促進する政策は存在せず、それどころか規制色の濃い考え方が基本になっている。

相続税を例にとろう。孫が遺産を相続した場合、税額が2割アップになる規定がある。
2千万円の相続税が必要な財産を承継した場合、孫だと2400万円が必要。金額が大きくなりがちなものだけに2割の負担増は重い。

2割加算規定の理由は、本来なら二回相続すべきものを一回で済ませているから、税金の面で不公平という理屈。対抗策として孫を養子にするケースも多かったが、これも近年の規制で封じられ、もともとが孫なら2割加算の対象にされる。

折しも、贈与税の非課税枠が拡大されたり、事業承継税制なるものが鳴り物入りで登場したり、「子世代にお金を回す」というコンセンサスが得られるようになってきた中で、旧態依然の発想に基づく2割加算規定は放置されたまま。

新しい制度を登場させて資産移転効果を狙うことは歓迎だが、その一方で、既得権益のように従来の発想をもとにした制度が威張っているのは何か違和感がある。従来からある税制特典を「孫」をキーワードに拡充するぐらいの発想の転換があっていい。

子供の住宅取得資金や20年以上連れ添った夫婦間の資金贈与には、通常とは別の非課税枠がある。こうした制度の対象に「孫への贈与」を加えることで景気刺激効果は発揮されるはず。

孫のためならお金を使うお年寄りは物凄く多い。だったらその風潮を後押しして、孫への資産移転を煽る政策を展開するのは、理にかなった話だと思う。

“金持ち優遇はケシカラン”という相も変わらぬ理念無き主張に真っ向から反発するわが社の新聞でも、こうした発想の転換に向けたオピニオン記事を順次掲載していこうと思う。

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