料理のジャンルの中で掴み所のない存在が「洋食」だろう。和食ではないものとして名付けられたわけだが、和食以外のすべてを指すわけではなく、あくまで「西洋風の日本の料理」というイメージだ。
欧米にルーツがある料理が日本人向けに進化したものというのが定義だろう。ラーメンや冷やし中華の場合、ルーツが欧米ではないから洋食とは言われない。
そんなことはさておき、私は無類の洋食好きである。我々の世代は、アメリカのいわゆる「小麦戦略」を真っ正面から受入れた世代だから身体の芯から洋食が好きだ。
アメリカの小麦戦略は、最近こそ知られて来た歴史の事実だが、考えてみれば凄まじい話ではある。
余剰農産物の処理に困ったアメリカが、大量の小麦を安く日本に押し込む一方、その使い方まで指図するために膨大な資金も用意して日本人の食生活に革命を起したというもの。
明確かつ長期的な国家ビジョンを持ってヨソの国の食文化を変えちゃうんだから、アメリカのしたたかさには恐れ入る。
昭和30年代には、日本の立派な学者まで旗振り役になって「コメを食ったら馬鹿になる」とか「パンを食べなかったから戦争に負けた」みたいなトンチンカンな話が世間に流布されたらしい。
給食は全面的にパンばかりになり、その後は気付いたらアメリカ系のハンバーガー屋がドドッと押し寄せ、その手のファーストフードが国民食になった経緯がある。
事実上の植民地政策にどっぷりと浸かり、古くからの食文化が否定されてしまったわけだから、敗戦の隠された後遺症みたいなものだ。
結果、我々の世代の給食は毎日毎日変わりばえのしないまずいパンとバターが主食だった。
何も知らずに食べていたが、戦勝国に利益をもたらす一助を担っていたかと思うとシャクにさわる話ではある。
まあ、今更ブツクサ言っても始まらない。そんな話はさておき、洋食の話題に戻ろう。
もともと明治、大正時代からハイカラな食事として存在していた洋食は、小麦戦略という強力な後押しによって広く普及する結果となり、庶民にも身近になっていった。
マカロニグラタン、コロッケ、フライ。その他にも肉や乳製品をブリブリ消費する必要のあった敗戦国ニッポンの事情もあって、日常的な食べ物として浸透したわけだ。
昭和40年代に可愛い子どもだった私が、それらの料理を浴びるほど食べたのも当然だ。おまけに実家の祖父は「浅草のモボ」上がりである。ハイカラな洋食が大好物だったから、世相も相まって、わが家のハレの日はその手の料理が基本だった。
そんなこんなで、和食以外のものを食べたい時でも、私の場合、真っ先に浮かぶのが洋食である。正統派フレンチとかではない。カニクリームコロッケとかタンシチューとかメンチカツとか、そっち方面に心奪われる。
冒頭のタンシチューとこの肉汁メンチカツの画像は、銀座8丁目の「YAMAGATA」にてワシワシ食べた料理だ。
この店は、クラブやスナックがたくさん入っている雑居ビルにひっそりと構える。銀座界隈の洋食屋さんのなかでは、値段設定はお手軽だ。味もまあまあ。ファミレスとかカフェだと今ひとつ物足りない気分の時に使うには悪くない。
優雅さとか高級感とは違うが、小綺麗で落ち着く空間だ。小洒落た洋食の定食屋さんぐらいのイメージだろうか。
ちなみに「洋食気分」を確実に満足させてくれるのが日本系老舗ホテルのカフェレストランだろう。メインのフレンチとかではなく、ロビーフロアに構える気取らない店に、その手のウマいものが用意されている。
そういえば、最近、皇居横のパレスホテルが新装オープンしたから、ローストビーフとピラフを食べに行かねばなるまい。近いうちに探検してこよう。
話がそれた。画像は九段下のグランドパレスの小海老のピラフだ。ナントカのひとつ覚えのようにこのブログで誉めまくっているが、最近も飽きずにガシガシ食べている。
特製ソースをピチャッとまぶして熱々のピラフを口に運ぶと、この国に生まれて良かったとしみじみ思う。大げさだがホントだ。
いつもこればかり注文するので、ついつい他のメニューに目がいかない。フンワリオムライスも評判いいし、カレーライスも根強いファンがいるらしいが、いまだ未体験だ。
先日はピラフ以外にカルボナーラを注文してみた。
やはり日本の洋食である。イタリアンレストランで出てくるカルボナーラとは随分違う。半熟レア気味のタマゴが頂上にトッピングされている。
ぐちゃっと崩して、弾け出てきたオレンジ色の液体を全体に和えていく。うーん官能的である。こんな作業が自分で出来るのがちょっと嬉しい。
味はどことなく日本的だった。家庭で作ったらこんな感じになりそうな身近?な感じ。それはそれでとっつきやすい感じで悪くなかった。
なんだか書いているだけで腹が減ってきた。根岸にある香味屋のビフカツとか赤坂津つ井のビフテキ丼とかのイメージがこの瞬間も脳裏をよぎっている。
パブロフの犬状態である。ツバだらけだ。食い意地煩悩太郎である。
胃腸方面にはくれぐれも元気でいてもらいたいものだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿