初夏である。香り、いや「匂い」を楽しむ季節の到来だ。香りというより匂いといったほうが生々しくてピンとくる。
都会暮らしだとなかなか気付かないが、季節ごとの匂いを感じると妙に気持ちが浮き立つ。
これから夏にかけて一年のうちで最も印象的な匂いが漂う季節だと思う。
このところ、タバコや葉巻を手にベランダでマッタリする際に蚊取り線香を焚きはじめた。
デング熱を恐れているわけではない。単純にあの匂いが恋しくなってきた。まだ蚊の姿はちょろちょろしか見かけないのにバンバン焚いている。
ニッポンの夏を象徴するのが蚊取り線香の匂いだ。なんとも郷愁を誘う。あの臭いを嗅いだ途端、脳の動きが止まったかのように陶然とする。
香りを楽しむはずの葉巻なんか放っぽらかして蚊取り線香をクンクンしてしまう。一瞬にして子供の頃を思い出す。
井上陽水の「少年時代」がどこかから聞こえてくる錯覚すら覚える。
夏の匂いは他にもいっぱいある。
花火の焦げたような匂い、夕立が降った後の土と葉っぱの青臭いような匂いも大好きだ。
スイカの匂いやホタル舞う川の匂いも良い。情緒たっぷりでウットリする。決して風流人ではない私だが、そんな匂いを感じると自分の中の何かが覚醒するような気がする。
嗅覚と脳の関係って、凡人は想像もつかないような神秘の世界だと思う。ほんの一瞬で脳が躍動し始める。
俗っぽい方向に話は移るが、ウナギ屋さんの匂いとか昔ながらのお寿司屋さんから漂う酸っぱい匂いも一瞬にて脳を刺激する。
それに比べてわが社の隣のラーメン屋から臭ってくる得体の知れない匂いは何とかならないものだろうか。
話が飛んでしまった
匂いの記憶も不思議だ。忘れているはずだし、思い出そうとしても思い出せないのに、その匂いを嗅ぐと一気にすべてを思い出す。
久しぶりに顔を出した実家の匂い、久しぶりに訪ねた喫茶店の匂い、はたまた久しぶりに会った女性の髪の匂いなんかもそうだ。
普段どんなに想像しても思い出せないのに、実際の匂いが一気にさまざまな場面の記憶を呼び覚ます。
15年ほど前にJungle Smileというユニットがヒットさせた「おなじ星」という曲がある。実は私のカラオケ愛唱曲なのだが、この曲にも匂いをめぐるニクい歌詞が出てくる。
♪ そうこの匂い 耳の後ろの匂い
昔から知ってる ♪
若い男女の恋の歌だから、そんな匂いを昔から知っているわけがない。要はそれほど運命的な恋であり、ヘタすれば前世からの恋だと言いたいようなニュアンスなんだろう。
ちょっと分かる気がする。
まあ、私の耳の後ろは皆さんが卒倒するので私には当てはまらないが・・・。
好きになりそうな人の香りが自分の好みだったら、とっとと好きになっちゃうし、その逆だったら一気に苦手な人に思えてしまう。
そんなものだ。私だけだろうか。
女性の香水は基本的に苦手だ。でも、好みの香りを少しだけ漂わせてくれるとグッとくる。
たいていの場合、そうした香りは香水ではなく、ボディークリームの香りだったりする。やはり香水とは違う。
シャンプーの香りや化粧品の香りや、その手のクリームの香りがベースにあるわけだから、そこに妙にツンツンした香水まで追加されるとチョットきつい。
何事も過剰なのは素敵ではない。まあ、世の中には香水が好きな人もいるから個人的な主張を必死に展開しても仕方がない。
香水が苦手と言っても、女性特有の髪の匂いは大好きである。頭だけ持って帰りたいぐらい好きだ。ムフフな場面を迎えても、ついつい相手の髪の香りを感じやすい格好になりたがる。
とはいえ、あれもシャンプーやコンディショナー、ヘアクリーム等々の匂いであって、「髪の匂い」ではない。
要は香料にノックアウトされているわけだ。香水嫌いとか言ったところであんまり説得力はない。
私自身が使っているハゲ予防用のシャンプーが無香性だから、女性の髪から漂うホンノリとした匂いに妙に惹かれるのかもしれない。
昼飯代に困っているとか、帰りの電車賃が足りないとか、そういう困った事情を抱えている妙齢の女性は私の至近距離で頭を振り回してくれればいい。
歌舞伎の連獅子のように激しくハッスルして髪の香りを堪能させてくれれば、すぐにでも協力する。
蚊取り線香の話が何だか怪しい話になってしまった。
毎度のことでスイマセン。
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