2017年8月4日金曜日

野球と老後


「野球ありき」。いまハヤリの「加計ありき」みたいな言い回しだが、昭和の頃、スポーツと言えば野球一辺倒だった。

今でこそスポーツ紙はサッカーや水泳、卓球、テニスにゴルフ、そして船越英一郎などで盛りだくさんだが、昔は野球が支配的だった。

いま、テレビ(地上波)のゴールデンタイムで野球を見かけることは無い。巨人戦が人気番組だった時代を思うと隔世の感がある。

すっかり野球熱は廃れてしまった。そんな印象を持つ人は多い。私もその一人だったのだが、先日、ひょんなことで「ヤクルト対中日」を神宮球場で観戦して、野球熱の“進化”に驚いた。


最下位争いをしているチームの戦いだから球場はガラガラかと思ったのだが、ほぼ満員。平日なのにビックリである。

印象的だったのは球場の一体感である。ヤクルトファンが団結して盛り上がっている。ライトスタンドなどに陣取る熱烈応援団だけが盛り上がっているわけではない。球場全体だ。

入場の際に強制的に配布されるヤクルトのユニフォームに袖を通した観客が個々の選手に合わせた歌や合いの手で大騒ぎ。得点のたびに専用の小さな傘を上下させて東京音頭を熱唱する。

昔からの光景とはいえ、その昔は名物オジサンさんが音頭を取った応援団に指示されて盛り上がっていた。

今は若い女性連れやグループが自然発生的に盛り上がり、球場全体に「野球が好き、スワローズが好き」という一体感が漂っていた。

昨今、「カープ女子」だの「オリ姫」といった特定チームを熱く応援する女性が話題だが、ヤクルト戦を見ていても、女性観戦率は高く、時代が大きく変わったことを痛感した。

フェス感覚とでもいえばいいのだろうか。単なる試合観戦ではなく、一種のエンターテイメントを楽しむ感覚が強いようだ。

イニングの合間にみんなで踊ったり、花火が打ち上がったり、演出も数多い。コンサートやライブのノリだ。

私が野球少年だった頃からウン十年。巨人一辺倒だった野球界も様変わりした。

各球団がテレビの放映権料をアテにしない経営革新を行い、趣向を凝らした地域密着型の娯楽産業に変えていった結果が今の野球熱の姿だろう。

北海道を本拠地に大胆なイメチェンをはかった日本ハムファイターズなどは、いわゆるCI戦略の大成功例だ。

ファイターズをめぐる今では信じられないエピソードがある。

もう40年ぐらい前の話だが、当時のファイターズは東京ドームの前身である後楽園球場が本拠地だった。

後楽園といえば天下の巨人の本拠地だ。あくまで巨人優先で、不人気だったパリーグのファイターズは二の次みたいな扱い。

それを裏付けるように後楽園の巨人戦の年間指定席を購入するとファイターズの試合がオマケでついてくるという物凄い“格下扱い”が罷り通っていた。

当時、熱狂的巨人ファンだった私の祖母が後楽園の年間指定席を持っていたのだが、巨人戦のチケットが孫に回ってくる機会は限られていた。

もちろん、オマケのファイターズ戦は誰も行かない。おかげで何度か見に行ったのだが、常に観客席はガラガラ。それこそ寝っ転がって観戦するぐらいの状況だった。

あれじゃあ球団経営が成り立たないのも当然だ。あの時代の反省が米・メジャーリーグを手本にした今のフランチャイズ重視型のスタイルにつながったのだろう。

この日は小学校からの旧友3人で試合観戦。「野球を見ながら酒を飲む会」という趣旨である。ビールにレモンサワー、枝豆に唐揚げといった正しいオジサンスタイルで、バレンティンのホームランに歓声を上げる。

知らない選手ばかりなので、スマホでネット検索してその選手の年棒をチェックするという新しい楽しみ方も見つけた。

やはり、安い給料のヤツはダメだし、高い給料をもらっているヤツほどプロっぽいプレーを見せてくれる。さすがにシビアな世界である。

その後、新宿3丁目のバーに移動して二次会。野球の話題で盛り上がりそうなものだが、話題の中心は老後についてである。

結果、旧友達で出資して空室だらけになった地方のリゾートマンションを一棟買いして、老人シェアハウスとして共同生活をするという素晴らしい計画?を大真面目に検討する。

入居条件や入居者の等級付けについて真剣に語り合う。手に職があるヤツは優遇、万引きが得意なヤツも優遇、誰かの代わりに刑務所に入ってくれたヤツは最高幹部として厚遇、孫に大切にされて幸せなヤツは冷遇などの細かいルール作りを議論する。

気付けば日付が変わっていた。

平和である。

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