どのジャンルの料理もそうだが、焼鳥の世界も幅が広い。下町の商店街で売っている一本50円ぐらいの焼鳥から銀座あたりのシャレオツな店で出てくる一本800円ぐらいの焼鳥まで実にさまざま。
基本的には大衆向けの料理だが、大衆過ぎてもあまり美味しくないから困る。かといってウマくても高級過ぎるのもちょっと違う。
ちょうどいい焼鳥。これが一番だ。まあ、人によってその基準は違うのだろうが、あくまでしみじみ味わってうなずくようなレベルの焼鳥が愛しい。
大衆酒場で出てくる安さだけをウリにした焼鳥の場合、味わうというよりただ頬張って噛むだけのことが多い。ウマいマズいの枠外の存在である。主役には程遠い。
やはり雑多なメニューの居酒屋料理の中の一品より焼鳥専門店でこだわって提供される焼鳥が「ちょうどいい焼鳥」における基本線だと思う。
私がちょくちょく訪ねる自宅近くの焼鳥屋さんはまさに「ちょうどいい」のひと言だ。いや、名店と呼んでもいい。タバコだって吸えちゃう。
安過ぎないけど高くない。味は高級店に負けず劣らずのレベル。レバー、ハツ、砂肝あたりの内臓系が美味しいことが名店の証だ。ついでにいえばササミやナンコツのレベルが高いのも嬉しい。
ササミやナンコツは焼鳥業界?ではスター的な存在ではない。脇役だ。でもこれらがウマい店は何を頼んでも間違いがない。
このお店、コロナ前は連日大混雑でふらっと一人で出かけても満席で断られることが多かったが、コロナ禍で一気に入りやすくなり、この2年ほど私の晩酌場所として欠かせないお店になった。
ところが、世の中の人の動きと合わせるように、まん防下にあっても客足はしっかり戻り始めており日によっては満席で入れないこともある。
近いうちに引っ越す予定だが、そう遠くない距離での移動なので今後も通うことになりそうだ。
先日、京橋の老舗有名店「伊勢廣」に行く機会があった。ホテルニューオータニなどに支店も出している東京の名門焼鳥屋さんである。
職場から近いのに過去に一度しか行ったことがない。コースが基本というコンセプトが苦手なので足が向かないのだが、この日は連れがいたので久しぶりにノレンをくぐった。
いつのまにか建て替えてやたらと綺麗かつ雰囲気の良い空間に生まれ変わっていた。これは接待やデートなど用途を問わず使えそうだ。
そもそも好きなものしか食べたくない私は焼鳥に限らずコース料理を敬遠しがちだ。ワガママなのか偏屈なのか、おそらく両方だと思うが、この日の焼き鳥フルコースはそんな私の思い入れを反省したくなる素晴らしい内容だった。
でもやっぱり私にはちょっと量が多いから、コース前提のこの店には大食漢の同行者が一緒じゃないと行く機会は無さそうだ。
「ちょうどいい焼鳥」と表現するより「ちょっとアッパーな焼鳥」というジャンルである。とはいえ、イマドキのキンキラな高級店とは違い質実剛健な雰囲気が色濃いのが心地よい。変わりダネを使った創作系みたいな串が一切ないところも老舗の矜恃のようで悪くない。
どの串も実に丁寧な仕上がり。丁寧さという部分が焼鳥の品格?を決める最大のポイントだと思う。テキトーな店だとねぎまのネギが生焼けや焦げ過ぎでゲンナリするが、そういう心配はまったくない。
ねぎまもネギのウマさが際立っていた。これでこそわざわざネギを活用する意味があるって感じだった。砂肝の焼き加減も絶妙、あまり好きではない手羽先も想像以上に美味しくて残さず食べた。
素材の良さはもちろん、プロが丁寧に職人技に徹していることが人気店であり続ける最大の理由なんだろう。焼鳥マニアでもない私でも素直にそう思った。
たかが焼鳥、されど焼鳥。考えてみれば焼鳥の世界は実に奥が深い。焼鳥屋さんはもはや国民食だ。日本中に専門店が星の数だけあるわけだからアチコチで連日日本人に憩いを与えている存在だ。
焼鳥文化が成熟した国に生まれて良かったと改めて感じる次第である。
2 件のコメント:
お久しぶりです。伊勢廣の団子は、最高ですね。私もコースは苦手です。レバーがダメなので。ところで、自宅近くのお店教えて下さい。新富町焼鳥でグーグルで調べても、富豪記者様の写真のつくねがわかりません。
名古屋のえいちゃん様
新富町の店は「義常」です。単品注文は2本ずつなのでいろいろ食べられないのが痛いです(笑)
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