2009年5月29日金曜日

バリ島のゾンビ

お化け的な話は身の回りに結構あるようだが、いい大人が喜々として話すものではないという世間の常識のせいで封印される。

私自身、霊感が強いほうではないが、弱いほうでもないらしく、時たま意味不明な体験をする。

わが社の役員応接室では、今でも不思議な出来事に遭遇する。天井に埋められたいくつものダウンライト。これが、調光機で操作しているかのよう激しく強弱する。1か月に1度くらいはそういう状態を目撃する。

不思議なもので、私以外の社内の人間はそれを目撃していない。おまけに、仕事上の来訪者と話をしている時には不思議とその状態にはならない。

電気配線の接触不良と考えてはいるが、それにしては不自然なことが多く、少し気持ちが悪い。

その部屋は、改装する前は創業者である私の祖父の執務室があった場所だ。怒られてるのか、励まされているのか、まあそんなところかもしれない。

さて、昨日のブログで思わせぶりに書いたバリ島の恐怖体験について。

山あいのリゾートに泊まっていた時の話。繁華街まで出かけて、宿の車に迎えに来てもらった。

夜更けの路上、街灯もない真っ暗な場所でホタルを偶然見つけて、しばし観察していた時のこと。うめき声と叫び声の中間のような不気味な声がどこかから聞こえてきた。

自然の多い山あいの道だ。野犬とかイノシシぐらいはいるだろうとやり過ごしていたが、現地人の送迎ドライバーの様子が少し変だったのが気になった。

バリ島は神の島と称されるほど神秘的というか、霊的、呪術的な習慣も多い。現地人は、子どもからお年寄りまで「お化け的なもの」を信じている。

現地人と話すと「あそこのホテルはお化けが多い」とか「あそこの海辺に出るお化けは良いお化けだ」みたいな話を普通にしている。

まあそういう考え方が根付くような不思議なオーラが島全体に漂っているのも確かだ。この日のドライバーの様子も後から思うと「得体の知れないもの」を恐れている感じだった。

いつまでもホタル見学をしていたかった私は、ドライバーにせかされ車に戻った。お互い英語力が不充分だったので、せかされた理由はよく分からない。その場所自体に問題があるといった趣旨の話をされた。

エンジンをかけてヘッドライトがついた。ライトの先に人らしき姿が映った。よく見るとありえないほどやせ細った初老の男がこちらに向かって歩いてくる。

周囲に民家らしきものはまったくない。どこから来たのだろう。目はうつろだが大きく見開かれており、真っ赤に充血。着ているものは泥だらけのボロ布。おまけに素足だ。一心に車に向かって歩いてくるように見える。

ドライバーの表情が一変して、何か呪文にも祈りにも聞こえる調子でブツブツ声を出している。動き出す車、近づく痩せた初老の男。妙に重苦しい雰囲気。

ただの浮浪者だろうと思っていたのだが、よく見るとゾンビそのもの。ちょっと異様な姿だった。いよいよ車と初老の男が再接近した時、急に初老の男が車に向かって機敏に動いた。

ぶつかると思って、私も身体をこわばらせた。ヤバイと思った瞬間、両手を車のほうに伸ばしながら激突したはずの初老の男は、なぜだか2~3メートルほど車とは反対側に移動して、走り去る車を見つめていた。

どう考えても、車と衝突したはずだ。実際にそう見えたのだが、車に何かが当たった音は一切しなかった。ほんの少し何かがかすったぐらいでも走っている車には音は響くはず。SF映画の瞬間移動みたいに移動したとしか思えなかった。

怖いというか、何だか分からず、ただ首をひねっていた私の前でドライバーは、その後しばらく一心に祈りみたいなつぶやきを続けていた。

陽気だったドライバーは、初老の男を見てからまるで様子が変わってしまった。ホテルに到着して、チップを渡しても目はうつろで、まださきほどの状況に脅えている。

言語の壁のおかげでスムーズな意思疎通が出来なくて正直ホッとした。普通なら「さっきのあれは何だったんだ」みたいな会話になるはずだが、私も本能的に話題から避けるようにした。

翌朝、ホテルの敷地内を散歩していたら、前の晩のドライバーに会った。朝の挨拶を交わしがてら私は質問した。「夕べのあれは何だったんだ?」。

彼の答えは「何も見ていない。我々は何も見ていない」。しつこく身振り手振りで食い下がったが「ホタル以外は何も見ていない」と少しウンザリした表情で答える。

腑に落ちないままその場を去ったが、その後、ホテルのマネージャーと世間話をしていた時に気持ち悪い話を聞かされた。

マネージャーのほうからその話題を振ってきた。夕べは大変だったね、みたいな語りかけに少し驚く。ドライバーを通してホテルスタッフには“事件”として認識されていたらしい。

マネージャーが言うには、「火葬待ちの死体が歩いていたのだろう」というトンデモない結論。

バリ島では、火葬に相当なお金が必要になるため、いったん土の中に遺体を埋めておき、お金が貯まったら掘り出して火葬にすることが多いという。

私がホタルを見た辺りでは、何日か前に火葬待ちの遺体が埋められたのだという。言われてみれば、初老の男は泥だらけだった。

冗談めかして話をされたのならともかく、マネージャーはごくごく普通の話をするようにそんなことを解説する。恐るべし。

あの痩せた初老の男、この世のものではなかったのだろうか。いまも不思議な気持ちだ。

信じ込むのは恐ろしいので、私の中の一応の解釈はざっと次のようなストーリーだ。

畑に酒を持ち込んだ農民が、農作業を終えたあとに泥酔して眠ってしまい、車の気配に目覚めてヒッチハイクを頼みに来た。それだけのこと。泥だらけだったことも目の充血も説明がつく。

それが真相だと思いたい。でも、あの日ホタルだと思って見つめた光は人魂だったのかもしれない・・・。

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