2022年4月1日金曜日

空の青さ

 

先週末、箱根の仙石原に行ってきた。毎年恒例行事になっている元家族旅行である。宿はいつも利用している「箱根翡翠」。

 


 

ここは一般でも予約できるが一般予約だと妙に高い。とはいえ、もともと会員制リゾートホテルだから会員の宿泊利用券があれば格安で泊まれる。

 

大浴場にはにごり湯の露天風呂もあるし、部屋にある露天風呂にも温泉が引かれているからノンビリ過ごすには穴場だ。

 

節約のため?に夕飯はいつもホテルでは食べずに近くの餃子屋で済ませる。これが結構楽しい。いろんな種類の餃子を山ほど注文して生ビールと一緒に楽しむ。食べ盛りの子供がいるわけだからこれが正解だろう。

 

ダウン症の息子はこの春中学を卒業した。義務教育終了である。健康体で元気バリバリなのだが、知能的には幼稚園児レベルである。高校に行かせるかどうか悩んだこともあったが、本人が学校が好きだと言うので4月から支援学校の高等部に行くことになった。

 

息子は一年中「箱根に行こう!」とせがむほどこの旅行が大好きで、行きのクルマの中から既にハイテンションである。カーオーディオをコントロールするアレクサに勝手に語りかけて自分が聴きたい音楽を呼び出しちゃうのが迷惑なのだがヤツが主役の旅である。仕方なく我慢する。

 

ダウン症の子の特徴は何といってもおおらかさだろう。息子も元来のひょうきん者で穏やかな性格もあって生まれてからずっと親身になってくれる先生や支援者に恵まれてきた。親バカみたいな書き方になってしまうが、人に好かれる才能は彼の天性のものだと感じる。

 

普段一緒に暮らしていないから旅行中は私にベッタリである。私より濃いスネ毛を持つ息子にベタベタされるのはビミョーだが、無垢な心で絶対的信頼感を持って接してもらえることは幸せなことだ。

 

邪心もアザとさもまったく無い息子からは人間の本質みたいなことを学ばせてもらえる。半世紀以上生きてきてすっかり汚染された私の心は彼と過ごすことで随分と浄化されている。

 

体力的にキツくなってきたが息子と過ごす時間はなるべく彼の好きなようにさせる。大浴場でも人目が無ければ幼稚園児と遊ぶような感じでバチャバチャと騒ぐし、背中に乗せて泳ぐような格好で浴槽内をウロウロする。この時とばかりシャンプーだって丁寧にやってあげる。

 

もう高校生になるからあまり子供扱いするのは教育上良くないのだが、彼にとっての一大イベントであるこの日ばかりは母親に文句言われるぐらい甘やかしてしまう。

 


 

朝食は娘と元嫁がホテルのレストランで洒落たパンケーキを楽しむ一方で我ら男子チームは部屋のテラスでカップ麺やコンビニのおにぎりを頬張って過ごす。こういう時間もなかなか良い。

 

私も息子もパンケーキを食べるより「どん兵衛」をすすっているほうが幸せなタイプだ。息子の食べ過ぎを注意しがちな母親の居ぬ間に私の分までガツガツ食べる息子の嬉しそうな様子に甘甘父ちゃんとして目を細める。

 

ヤツが小太りになってきているのは私のせいかもしれない。それはそれで問題だが、ついつい甘やかしてしまう。つくづく父親としてはダメダメだと思う。必要な場面では厳しく接することこそ教育なのだろうが、私にはその才能が欠落している。

 

天気も良かったので御殿場のアウトレットの広大な敷地を歩き回ったり芦ノ湖にも足を伸ばしたりした。芦ノ湖では遊覧船にも乗った。

 

遊覧船でクルーズといったベタな観光を毛嫌いしがちな私だが、喜ぶ息子と一緒だと結構楽しい。海賊船の船長にでもなったつもりの息子に付き合いながら私もちょっとハシャいでしまった。

 



 ダウン症の子を授かって早15年が過ぎた。過ぎてしまえばアッという間だったが、その事実を知らされた時の衝撃は今も鮮明に覚えている。暗澹たる気持ちになってこの先は空の色が青く見えることはないのだろうと勝手に思い込んだほどだ。

 

でも15年経ったいま、晴れた日の空は普通に青く美しく見える。


それで充分だと思う。





 

 

 

 

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