このブログでも以前に取り上げたが、このところの税制の変化の中で大きいのが相続税に関するものだろう。
財産を贈与されても贈与税はかけずに、贈与した人が亡くなったら、死亡時に一括して相続税と合算する「相続時精算課税」が誕生したあたりから、随分と制度そのものが変化の渦の中にある。
贈与税と相続税を合算するという考え方だって、その昔には考えられなかったわけだから、近く正式にスタートする「自社株相続の特例」も見方によっては非常に画期的な話だ。
ごくごく簡単に説明すると、中小企業の上場していない自社株を相続した場合、その会社の後継者には、自社株にかかる相続税を大幅に免除してあげましょうという内容だ。
これまでも、相続財産のうち、居住用の土地であれば、相続税を一定額免除する制度があったが、この考え方を中小企業の自社株に広げたものだ。
「株式を相続した」と聞くと、確かに「財産をもらった」と同じ意味である。とはいえ、株式といえども、中小企業の自社株は、当然、流通性などない。自由に売り買いできるシロモノではないのに、税務上の評価をすると1株あたりの株価が、いっぱしの上場会社より高いというケースは珍しくない。
青息吐息の状態だろうが、資金繰りに頭を痛めていようが、昔からの工場用地とか所有資産次第では、相当高額な評価額が弾き出され、それに対して相続税がかかってくる。
こういう状況を救済する目的で、新しい制度が登場したわけだが、問題は適用条件がやたらと厳しい点だ。
まず、相続税が免除(正式には猶予)される対象は、会社の跡継ぎ1名のみ。同族関係者の中で筆頭株主であることが条件で、兄弟で事業を継ぐ場合に兄弟皆が対象になるわけではない。
それはともかく、厳しいのが「5年8割条件」。
相続の後、5年間は代表として事業を継続し続け、株式もすべて保有し続ける必要がある。おまけに雇用を最低でも8割は維持しないと特例はフイになる仕組みだ。
5年間という期間は、会社を経営している人間から見れば、かなり長期である。経済環境、社会環境が激しく様変わりする昨今、5年間もの間、変化もなく同じ形態で事業を続けることを確約できる経営者などいるのだろうか。
どんなに優秀な経営者がどんなに真面目に取り組んでも、時代に合わなくなったり、何かしらの不可抗力をともなうトラブルにでも巻き込まれたら、雇用の8割維持など簡単なことではない。
また、跡継ぎになって代表として経営に当たっても、資質の問題だってある。他の人間の方が代表者として適任であれば、トップを交代したほうが、よほど会社のためになる。
それこそ雇用の8割維持を達成するためにも、トップ人事をそのように判断するほうが賢明という事態も起こりえる。
今回の自社株相続の特例だと、5年以内に少しでも株を移動したり、上記の条件を守らなかった場合、免除されていた相続税は、利子税まで付けてただちに納めるハメに陥る。
5年もの期間に渡って、代表者の地位も雇用も変動がないようにしろという発想は、まさに役人的発想だろう。
変化もなく人事にしても予定調和の中でしか動かない役人の考えそうな条件だと思う。
民間の事情、中小企業経営の実態を理解していたら、もう少し違う形になるような気がする。
この自社株相続の特例は、あくまで、使いたい人が使える制度。使うか使わないかは、詳しい税理士などを交えて慎重に検討するほうが賢明だろう。
われわれ専門マスコミも、つい「自社株相続税が大幅に減税」みたいな表層的な取り上げ方をしてしまいがちだが、おいしい話には当然、厳しい条件がある。こうした部分にしっかり焦点をあてて報道することが大事だと思う。
2008年9月17日水曜日
自社株相続 お役人的思考
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