年末、山陰にカニを食べに行った。正月の家族サービスの前にふらっと一人で忘年旅行をする習慣がある私だが、こういう「無所属の時間」って大事だと思う。一人で哲学的に過ごすことで、脳みそが活性化する、というのは真っ赤なウソで、単にカニのことだけを考えていた。
目的地は米子・皆生(かいけ)温泉。ここに2泊しながら、境港に足を伸ばしたり、ふらふら別の温泉を訪ねた。
出発日、出発時刻の40分ほど前に羽田空港に着いたが、さすがに年末で大混雑。なぜか私の予約方法では、自動チェックイン機が使えず、並んでいた時間が無駄になった。ネットで予約しただけでまだ購入していなかったので、時間が迫ってくるとキャンセル待ちの方が優先されちゃう恐れがあったので、ちょっと焦った。ほげほげしていたら、出発15分前になってしまった。
さすがに係員を捕まえて、クレーマーに変身してみる。株主優待券を利用した予約だったので、「株主としてこの段取りの悪さは問題だと思う」とかなんとか言ってみる。
おかげで個別に購入、搭乗手続きをしてもらえた。おまけに人が並んでいるゲートをよそに出発検査場まで別誘導もしてもらえた。優待券だけ持っていたニセ株主だったので、ちょっと恐縮する。
わずか1時間ちょっとで米子空港に到着。とりあえず、タクシーで境港まで行ってみる。魚天国のイメージがあった境港は、実際は鬼太郎天国だった。水木しげるの故郷ということで、町おこしに鬼太郎が大活躍。町中に鬼太郎に出てくる妖怪のブロンズ像があり、土産物屋をはじめすべてがとにかく鬼太郎。ちょっと変な感じ。
昼時だったので、やはり港町では寿司屋だろうと思って適当に探してみる。古い建物が歴史を感じさせる外観の「I鮨」に入ってみた。昭和レトロというより、大正レトロな感じで妙に渋い。でも客がいない。静まり返っている。妖怪ハウスのような雰囲気だ。ボーっとカウンターにたたずんでいた年齢不詳の男性が、元気のない感じで私を見つめる。それこそ鬼太郎にでてくる「ぬらりひょん」とか「一反もめん」的な様子に少したじろぐ。
この男性、最初は店員さんかと思いきや、店の主のようだ。のそのそ準備を始める。とりあえずビールを頼んで様子を伺う。街場のお寿司屋さんで客もいなかったのに、カウンターは禁煙と事務的に言われ、たじろぐ。
期待できそうな気配は皆無だったので、ちょろちょろ刺身をつまんでから握ってもらおうという考えを中止して、私には珍しく、素直に1人前を握ってもらうことにする。
いきなり店選びを外したなあと落胆しながらビールをあおっていたのだが、出てきた鮨がかなり美味しい。年齢不詳の店主(たぶん30代後半ぐらいだろうか)、結構あなどれない感じだ。ただ、なんとなく私には気分の乗らないお相手と見えたので、黙って食べ続けた。でも率直に旨い。ちょっと悔しい。甘エビとボタンえびの中間のような感じのオニエビとやらが印象的。そのほか白身の魚が絶品。
こっち方面は、醤油がいわゆる煮きりではなく、たまり醤油のような濃い目のものを使うのだが、この店の場合、少し甘めのツメも混ざっているような風味で独特な味わい。ただの濃い目の醤油よりは寿司に合っている感じがする。相当こだわりと自負を持った寿司屋に見えた。
後から入ってきたお客さんがバッテラを注文。その場で作っているところを見ていたのだが、さすが関西に近いエリアだけにてきぱきと旨そうな寒サバをあっという間に押し鮨に仕上げている。
勝手がわかったら良そうそうな店だが、なんといっても、「ぬらりひょんん」な感じが強いので一言で言うなら、ビミョーな感じ。結局、1人前の握りに追加で4貫ほど別な魚を握ってもらい、ビールを2本飲んで退散。
ぷらぷら「水木しげるロード」なる不気味な道を散策して駅に向かう。途中にあったパン屋まで、売っているパンが妖怪ばかりだったのには笑った。
境港駅から米子まで電車で移動。1両だけの文字通りローカル線。Ipodをごそごそ取り出す。選曲したのは、黛じゅんの「天使の誘惑」とか奥村チヨの「恋の奴隷」あたり。そんな気分と景色だった。
米子から皆生温泉まで移動して、この日泊まる「東光園」へ。伝統のある温泉宿らしいが、いまをときめく星野リゾートの手によって再生されたらしい。綺麗な庭園を持つそれなりに情緒のある宿だ。
大浴場も悪くは無いが、サウニストの私には、サウナが無いことが大減点。歩いて10分ほどの距離にある「華水亭」という高級旅館に日帰り入浴に行く。ここの大浴場はかなりの水準。露天風呂の広さや景観が高得点。日本海を目の前に気持ちの良い湯浴みが可能。サウナに何度も入って、火照った身体を海風にさらすと1年の疲れが飛んでいく感じ。
サウナが無いのに「東光園」を選んだのには理由がある。一人で泊まれて、松葉カニてんこもりの夕食プランがあったことがそれ。個室食事処でカニ三昧。この時期ならではの松葉ガニ(ズワイ)が3杯も付く。
1杯はまるまる茹でガニで味わい、あとは刺身、焼き、てんぷら、カニすきになって出てくる。おまけに刺し身や焼きガニにはタグつきの活ガニが使われるということで、カニ好きには嬉しい内容。
とにかく全部美味しかった!とくに甲羅みそ焼きが涙があふれそうになるぐらい旨い。食べ終わったらチンチンに燗をつけた日本酒を注文。甲羅に注いでうなりまくる。(ちなみにチンチンに燗酒を注いだわけではない。。。)
悪い癖で別注料理のメニューを見ると何か頼みたくなってしまい、この日もイカ刺しを頼んでしまう。これが失敗。味は絶品だったが、丸々一杯分のイカが登場。多すぎる。焼きガニの炭火にゲソも乗っけて焼いてみたりしてなんとか食べつくす。
強いて言えば、てんぷら、カニすきはどうでもよい感じだった。茹でガニか焼きガニがハイライトだ。次の日も別な場所でカニ三昧予定だったので、この判断は翌日の参考にする。
つづく。
2009年1月5日月曜日
カニと温泉と私
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