「これが私の素の姿ですから」などと親しくもない人に得意気に言われるとビックリする。大丈夫ですか?と言いたくなる。
そんなに「自分」を大盤振る舞い?しちゃうと何かと大変だろう。「素の自分」を見せることが美徳かのような最近の風潮はチョット変だと思う。
もちろん、自分らしさを隠さず、思ったように行動することは大事だ。我慢ばかりだと病気になってしまう。でも、それと「素のまま」をさらけだすことは違う。
すべてをさらけ出しちゃうのは行き過ぎだ。「素の自分」にしても「ある一部の面における素の自分」でとどめておくことが必要だろう。
飾ることは人として当り前の作業だ。人様に良く思われたい、信用されたい、評価されたい、頼りにされたい、愛されたい等々、すべての欲求を少しでも満たすためには、「素のまま」では難しいだろう。言葉や態度や見た目を飾るのは普通のことである。
虚飾や偽装だとしても、そこには頑張っている感じがある。「素の自分」のままだと何だか居直り、開き直りにも思える。
やはり適度な装飾は大事だと思う。
などとウサンくさいことを書いたが、今日書きたかったのは「女性の化け方」の話である。
要は虚飾、偽装、はたまた粉飾?だろうと、必死に自分を飾る女性はエラいという話を書きたかっただけである。前振りが長くてスイマセン。
男の場合、スーツが制服みたいなものだから飾りっ気は少ない。化粧もしないし、髪型もとっかえひっかえしない。簡単である。
女性は大変だ。服だって種類、色合い、素材感すべてに大量の選択肢がある。化粧も同様だ。飾り立てるための苦労も大変だと思う。
銀座あたりで奮闘する夜の女性陣の装飾にはつくづく感心する。それこそ「素」の状態から比べれば、別な人間が突然生まれたのかと思う。
極端な場合、30分もあれば明治維新ぐらいの激しい変化が達成される。
美容院で「立ち上がった巻き巻きの髪型」を製作してもらっている間に、がっつりハードに化粧に励めばモノの30分で「違う人」が出来上がる。それっぽい衣装をまとえば完成である。
虚飾や偽装などというとインチキみたいだが、良心的なインチキである。夜の街では男達自身が虚飾や偽装を喜んで鑑賞している。「素のまま」では決して成り立たない世界だ。
夜の蝶っぽい衣装や髪型を普段の生活で見かけることはない。だからこそドシドシそれっぽく飾ってもらったほうが楽しい。
その昔の「川口浩探検隊」とか「徳川埋蔵金」を探すテレビ番組と同じである。作りモノであり、ヤラセであり、何も出てこないのは分かっているのに、ワクワクした気分で見入ってしまう。
だから私は夜の街の女性がキンキンキラキラに変身している姿が好きだ。普段はパンクロッカーみたいな服を着ていたり、「森ガール」だとしても、そんな姿を連想させないでくれれば結構だ。
ちなみに、虚飾や装飾が激しくなるほど、男性客との距離をキッチリ保つ効果があるのかもしれない。「普通じゃない感じ」がかえって男と女の生々しさを分ける壁になっている気がする。
バニーガールの衣装なんてそういう点では最高である。多少、顔立ちが埴輪とか土偶みたいな女性でも、あの格好をしているだけで俄然ヒロインに思えてくる。
あくまでその女性はバニーちゃんであり、土偶ちゃんではない。バニーちゃんだからチヤホヤしちゃうし、バニーちゃんだからドリンクを奢ってあげちゃう。バニーちゃんだから口説こうとかお持ち帰りしようという発想も湧かない。
良いことづくめである。
装飾することで生まれる非日常性は言い換えれば「疑似」である。疑似恋愛の疑似だ。虚飾や偽装が疑似恋愛の大事なアイコンになっているのかもしれない。
ふむふむ、そういうことなんだろう。
ところで、夜の世界では客側、すなわち男にだって虚飾や偽装は付きものだ。カツラやシークレットブーツの話ではない。「それっぽく演じる姿」のことである。いわば「心のコスプレ」だ。
紳士的な印象を持たれたい、豪放磊落なイメージの男でありたい、寂しがりの甘えん坊のフリがしたい等々、多くの男性が無意識のうちにそんな可愛い偽装をしてみたくなる。
私などは「苦み走った寡黙な男」、「物静かな謎めいた男」を目指そうと本気で頑張ってみることがあるのだが、2分30秒ぐらいでボロが出てしまう。
ボロが出てしまっても、そこはしがない男である。適度にカッコつけて適度に見栄も張ってそれなりに気取っているわけだから、それだけで一種の偽装状態である。
化かし合いと言っちゃうと夢も希望もないが、夜の街には偽装した者同士だからこそ楽しめる要素が間違いなくあると思う。
と、さも真理を悟ったようなことを書いてしまった。
まあ、エラそうにグダグダ言ったが、男のサガはなかなか面倒で、分かっちゃいるのに「疑似」じゃない色恋に期待してしまう。
その「サガ」のせいで、結局、世のオトコ達は女性陣に手玉に取られる。古今東西それだけが真理である。
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